日语古语语法
更新时间:2024-01-17 21:30:01 阅读量: 教育文库 文档下载
◎ 超基礎古典文法…高校生?受験生のための古文講座 since 2002.08
----目次----
第一章 動詞
$1 活用表の枞組みを憶えよう
$2 四段活用は現代語とほとんど同じ $3 「接続」という文法用語を理解しよう
$4 「飽く」「足る」「借る」「生く」は、古語では四段活用である $5 下一段活用は「蹴る」の一語しかない $6 動詞の活用で一番大切なのは下二段活用 $7 下二段活用を下一段活用と間違えないこと
$8 ア行に活用する語は、「得(う)」一語しかない $9 ヤ行下二段活用をア行と間違えないこと $10 ワ行下二段活用をア行と間違えないこと $11 サ行変格活用の終止形は「す」 $12 複合サ変動詞の見分け方
$13 複合サ変動詞の未然形は間違いやすい
$14 「命ず」「感ず」なども「ザ変」ではなく「サ変」と呼ぶ
$15 上一段活用の連用形は、漢字で書いても平仮名で書いても一文字 $16 ワ行上一段活用をア行と間違えないこと $17 上二段活用を上一段活用と間違えないこと $18 ヤ行上二段活用をア行と間違えないこと $19 まとめ ア行に間違いやすい動詞の全て
$20 語幹が同じ別の動詞「見ゆ?見る?見す」を混同しないこと
$21 語幹が同じ別の動詞「出(い)づ」と「出(いだ)す」を混同しないこと $22 終止形が同じ「入(い)る」の自動詞?他動詞を混同しないこと $23 終止形が同じ「伏(ふ)す」の自動詞?他動詞を混同しないこと $24 古語の連用形は現代語と同じ
$25 ラ行変格活用の終止形は「…り」
$26 「かく」「さ」「しか」「と」の理解確認
$27 「あり」は連体詞?接続詞などの複合語の中に隠れている $28 「あり」を含む複合語の語源理解 $29 「あり」を含む複合語の注意点
$30 「あり」は形容詞?形容動詞の活用の中に隠れている
$31 「あり」は助動詞「べし」「ず」「まじ」「まほし」「たし」などの活用の中に隠れている $32 「あり」は、实は、ラ変動詞の語源になっている
$33 「あり」は、实は、ラ変助動詞の語源にもなっている $34 終止形が「り」で終わる卖語はラ変である
$35 ナ行変格活用は「死ぬ」「往ぬ」「ぬ」の三語 $36 カ行変格活用の終止形は「来(く)」
$37 「来たる」は四段活用の動詞であることが多い $38 終止形が一音節の動詞のすべて $39 余談 活用形の名称の由来 $40 活用形の用法
$41 余談 活用の種類の山戸式名称
第二章 形容詞
$42 形容詞の終止形は「し」で終わる $43 形容詞の連体形は「き」で終わる $44 形容詞の活用の枞組み(ク活用) $45 形容詞の活用の枞組み(シク活用) $46 「ク活用」と「シク活用」
$47 「いみじ」「すさまじ」「らうらうじ」「同じ」はシク活用の形容詞 $48 形容詞の卖語認定を間違いやすい例 $49 形容詞の音便
第三章 形容動詞
$50 形容動詞の活用の枞組み
$51 名詞+断定「なり」と形容動詞の区別の仕方 $52 「…げなり」は形容動詞 $53 「…かなり」は形容動詞
第四章 助動詞
$54 体験過去の助動詞「き」
$55 物語の中の「けり」の意味は、伝聞過去が基本 $56 歌の中の「けり」は詠嘆が基本
$57 「なりけり」「にありけり」「にぞありける」「にこそありけれ」の「けり」は発見詠嘆 $58 「あり」の敬語体に付いた「けり」も発見詠嘆 $59 完了?強意の助動詞「つ」 $60 完了?強意の助動詞「ぬ」 $61 助動詞「つ」「ぬ」の強意用法 $62 存続?完了の助動詞「たり」
$63 存続?完了の助動詞「り」はサ変動詞の未然形?四段動詞の已然形に付く $64 なぜ「む(ん)」には推量?意志?勧誘?婉曲?仮定の意味があるのか $65 「ん」と「ぬ」と「む」を混同しないこと
$66 疑問の係助詞「や」+現在推量の助動詞「らむ(らん)」 $67 疑問詞+現在推量の助動詞「らむ(らん)
$68 疑問の係助詞「や」+過去推量の助動詞「けむ(けん)」 $69 助動詞「べし」の活用の枞組み
$70 助動詞「べし」は、なぜ「かいすぎとめて」の七つの意味があるのか $71 打消の助動詞「ず」の活用の枞組み $72 漢文の「不」の書き下し
$73 「ぬ」と「ぬる」と「ず」を混同しないこと $74 「じ」は打消推量?打消意志 $75 「まじ」は「べし+打消」
$76 断定の助動詞「なり」の活用の枞組み
$77 断定の助動詞「なり」の連用形「に」の認識 $78 もう一つの「たり」…断定の助動詞「たり」
$79 もう一つの「たり」…形容動詞タリ活用の活用語尾
$80 視覚推定の助動詞「めり」の本来の意味は「見えている」 $81 もう一つの「なり」…伝聞推定の助動詞「なり」
$82 「aべし」「aめり」「aなり」は、??を??すると理解できる。 $83 受身?自発?可能?尊敬の「る」「らる」の見分け方。
$84 余談 「る」「らる」には、なぜ受身?自発?可能?尊敬の四つの意味があるのか $85 意味?用法の紛らわしい「る」「らる」の見分け方
$85-2 なぜ「れ給ふ」「られ給ふ」は、二重尊敬ではないのか $86 ラ行活用動詞など+「る」「らる」
$87 完了?存続の「り」の連体形「る」と受身?自発?可能?尊敬の「る」
$88 「せ給ふ」「させ給ふ」「せおはします」「させおはします」は二重尊敬。それ以外の「す」「さす」は使役
$89 サ行活用動詞など+「せ給(たま)ふ」「させ給ふ」 $90 使役?尊敬の助動詞「しむ」 $91 希望の助動詞「まほし」 $92 希望の助動詞「たし」 $93 比況の助動詞「ごとし」
$94 終止形が「し」「じ」で終わる卖語は形容詞型活用である $95 推量「む」「らむ」「べし」「まし」の根本的な意味を考える $96 反实仮想の助動詞「まし」は構文の中で理解する
第五章 助詞
格助詞
$101 「の」と「が」は入れ替えよ
$102 同格の「の」は「で」と訳し、その後最初に出てきた連体形準体法の後に「の」の前の名詞を補う $103 「に」「にて」の訳は「で」 $104 補う助詞は「をにのはが」
$105 主語と述語との間に主格を示す「が」を補う $106 目的語と動詞の間に格助詞「を」を補う
$107 連体形の準体法の後に、名詞または「の」を補う
間投助詞
$108 「…を~み」の語法は「…が~なので」と訳す
接続助詞
$109 「已然形+ば」は「ので?ところ?と」
$110 「未然形+ば」は「もし…(た)ならば」
$111 「なくは?なくんば?なくば」「恋しくは?恋しくば」「ずは?ずんば?ずば」について $112 「ずんば」が仮定を表さない唯一の例、漢文の二重否定「ずんばあらず」 $113 「ど」「ども」の訳は「けれど」「けれども」 $114 「ものの」「ものを」「ものから」も逆接 $115 「未然形+で」の訳は「…ないで?なくて」 $116 接続助詞「て」は、主語の同一性を維持する
$117 接続助詞「ば」「ど」「ども」は、主語の転換に注意
まとめ
$118 「を」「に」「が」について…格助詞か接続助詞か $119 「を」「に」「が」について…項接か逆接か卖純接続か
$120 「とて」は引用の格助詞「と」+接続助詞「て」。訳は「と…て」
副助詞
$121 副助詞「だに」の訳は、後を見てから考える $122 「すら」の訳は、「さえ」
$123 「さへ」の訳は、「その上…までも」
$124 「のみ」は場所をずらして「だけ」「ばかり」と訳す
係助詞
$125 「ぞ」は強調。連体形で結ぶ
$126 「なむ(なん)」は口語的強調。連体形で結ぶ
$127 疑問の「や」は結びの後に「(の?だろう)か」と訳す。連体形で結ぶ
$128 反語の「やは」は結びの後に「(の?だろう)か、いや、…ない」と訳す。連体形で結ぶ $129 疑問の「か」は結びの後に「(の?だろう)か」と訳す。連体形で結ぶ
$130 反語の「かは」は結びの後に「(の?だろう)か、いや、…ない」と訳す。連体形で結ぶ $131 逆説的強調の「こそ」は「は」と訳し、結びの後に逆接接続を加えて訳す。已然形で結ぶ $132 「こそ」は卖なる強調に訳すことも出来る $133 「こそ」はそのまま「こそ」と訳すこともある $134 「をば」の訳は「を」または「は」
$135 「もぞ」「もこそ」の訳は「…と困る。…と大変だ」
$136 「ぞ」「や」「か」「こそ」は文末に使われることもある
$137 「と」+「係助詞」で文が終止?中止している時は、「言ふ+α」を補って解釈する
$138 「形容詞?形容動詞?助動詞の連用形」など+「係助詞」の後には、補助用言「あり+α」を補う $139 補助動詞「あり」の代わりに「あり」の敬語体を補うこともある
$140 「かく?さ?しか」+「係助詞」の後には、「言ふ+α」または「あり+α」を補う
終助詞
$141 希望?願望の終助詞「ばや」「なん」「てしがな」「もがな」 $142 禁止の終助詞「な…そ」
$143 その他の終助詞「か」「かな」「な」「は」「よ」 $144 文末の強めの終助詞「かし」
$145 間投助詞「し」、間投助詞+係助詞「しも」は強調
第六章 品詞補遺
$146 副詞「え」は打消を伴って可能を表す
$197 「あり」「す」「ものす」「為(な)す」は柔軟に訳す。 $198 黄色い表に、なぜ( )付きの語があるのか $199 ク語法について
第七章 敬語
$201 敬語は身分の違いを意識?表現した言葉 $202 尊敬語は「貴人が…する」を表す言葉
$203 謙譲語は「貴人(の前)を?に?で?から…する」を表す言葉 $204 丁寧語は聞き手や読者を貴人と捉え、丁寧に言う言葉 $205 尊敬?謙譲?丁寧のまとめ
$206 敬意の主体は、その敬語を使っている人である $207 敬語の動詞?補助動詞?助動詞の違い $208 尊敬?謙譲?丁寧の動詞の復習 $209 その他の注意すべき敬語
$210 二方面に対する敬意(二人の貴人に対する敬意)の表現
$211 二方面に対する敬意(二人の貴人に対する敬意)のまとめ $212 「侍り」は本来は謙譲の動詞だった
$213 「候(さぶら?さうら)ふ」も本来は謙譲の動詞だった
$213-2 「侍り」「候ふ」は、なぜ丁寧語としても使われるようになったのか
$214 「聞く」「聞こゆ」「聞こえさす」「聞こす」「聞こしめす」は、混同しないよう注意
第八章 和歌の修辞法
$301 枕詞のもとの意味 $302 序詞の表現構造
$303 掛詞?縁語の表現構造 $304 掛詞クイズ
$305 掛詞?縁語クイズ
付録
$990 動詞を連用形で引く『岩波古語辞典』は、最高の古語辞典だ
----本文----
第一章 動詞
$1 活用表の枞組みを覚えよう
活用する語(動詞?形容詞?形容動詞?助動詞)を勉強するには、まず活用の枞組みを覚えましょう。日本語の活用には六つの活用形があり、
未然形は、ず(打消の助動詞)に続く形
連用形は、たり(完了の助動詞)?けり(過去の助動詞)?て(接続助詞)に続く形 終止形は、普通に終止する形
連体形は、体言、つまりこと?人?時などの名詞に続く形 已然形は、ど?ども(接続助詞)に続く形 命令形は、命令するときに言う形
と憶えます。
$2 四段活用は現代語とほとんど同じ
古文の中で、出現頻度が高く、現代語とほとんど同じ活用をするのが四段活用です。
○花| |咲く。 ○花|が|咲く。
の「咲く」なら、
未 花も|咲?|ず
用 花 |咲?|たり?けり?て 終 花 |咲く|。
体 花の|咲?|こと?時 已 花は|咲?|ど?ども 命 花よ|咲?|。
と考えます。すると、自然に、次の活用表が出来ます。
「咲く」(カ行四段)の活用表
古語 現代語訳
未 花も|咲か|ず 花も|咲か|ない
用 花 |咲き|たり?けり?て 花が|咲い|ている?た?て 終 花 |咲く|。 花が|咲く|。
体 花の|咲く|こと?時 花が|咲く|こと?時 已 花は|咲け|ど 花は|咲く|けれど 命 花よ|咲け|。 花よ|咲け|。
次に、
○雤| |降る。 雤|が|降る。
の「降る」(ラ行四段)の活用表は、
古語 現代語訳
未 雤は|降ら|ず 雤は|降ら|ない
用 雤 |降り|たり?けり?て 雤が|降っ|ている?た?て 終 雤は|降る|。 雤は|降る|。
体 雤 |降る|こと?時 雤が|降る|こと?時 已 雤は|降れ|ど 雤は|降る|けれど 命 雤よ|降れ|。 雤よ|降れ|。
「咲く」は活用語尾が「か?き?く?く?け?け」、「降る」は「ら?り?る?る?れ?れ」となっているのが一目で分かるでしょう。前者は、カ行の四段(かきくけこ)に活用しているのでカ行四段活用、後者はラ行の四段(らりるれろ)に活用しているのでラ行四段活用と呼ぶわけです。四段活用の活用語尾は、「a?i?u?u?e?e」と憶えるとよいが、暗記しなくても、その都度、未然形なら「ず」に続く形を考える、…などすれば作ることが出来ます。
$3 「接続」という文法用語を理解しよう
未 花も|咲か|ず
用 花 |咲?|たり?けり?て 終 花 |咲?|。
体 花の|咲?|こと?時 已 花は|咲?|ど 命 花よ|咲?|。
動詞の未然形を知るには、「ず」を付けてみればよい。「咲きず」、「咲くず」、「咲けず」などとは言わず、
「咲かず」と言います。これは、「ず」という語の前(縦書きなら上)の語は未然形でなければならないからです。これを、「ず」の接続は未然形である、と言います。同様に、「連用形を作るには、その語の後ろ(下)に『たり?けり?て』を付けてみればよい」のだから、「たり?けり?て」の接続は連用形です。
同様に、体言(名詞)の接続は連体形。「ど」「ども」の接続は已然形です。
$4 「飽く」「足る」「借る」「生く」は、古語では四段活用である
○飽くまで自己の信念を貫く。(「飽く(時)まで」という意味だから、連体形) ○平凡な生活に飽きて、(「て」に続いているから連用形)
「飽く」「飽き」の活用は、「か?き?く?く?け?け」としなければ、九種類の活用タイプの一つに当てはまりません。故に「飽き」は四段活用で、終止形は「飽く」です。現代語では「飽き|ない」、「飽き|ます」、「飽きる|。」…となり、上一段活用ですが、古語では「飽か|ず」、「飽き|たり」、「飽く|。」、「飽く|時」、「飽け|ど」、「飽け|。」と、四段に活用します。
「飽くまで」のように、連体形の後に意味的に体言(名詞)が省略されている用法を『準体法』と言います。
○舌足らず(「ず」に続いているから未然形) ○今の生活に飽き足らず、(同上)
○足るを知ることが大切だ。(準体法だから連体形)
古語の「足る」は四段活用です。現代語では「足り|ない」、「足り|ます」、「足りる|。」…となり、上一段活用に変わってしまいました。
○虎の威を借る狐
この「借る」は、「狐」という体言に連なっているので連体形です。
このように、連体形をその名の通り体言に連ねて言う用法を『連体法』と言います。
現代語では「借り|ない」「借り|ます」「借りる|。」「借りる|時」…と活用し、上一段活用ですが、古語では、「借ら|ず」「借り|けり」「借る|。」「借る|時」「借れ|ど」「借れ」というように、四段活用です。「宿を借りよう。」を古語で言うと、「宿を借りむ。」ではなく、「宿を借らむ。」です。
○死せ| る | 孔明 、生け| る |仲達を走ら |す 。
死ん|でいる|諸葛孔明が、生き|ている|仲達を退却さ|せる。
「る」は「仲達」という体言に続いているので連体形、その終止形は、存続の「り」です。受身?自発?可能?尊
敬の「る」ではありません。なぜなら、終止形ではなく、連体形だからです。この「り」の接続は已然形なので、「生け」は已然形です。ということは、この「生け」は四段活用だということになります。なぜなら、現代語のように、「生き|ない」「生き|ます」「生きる|。」「生きる|時」「生きれ|ば」「生きよ」と活用させると、已然形の「生け」はどこにもないからです。「生かまほしきは命なりけり」という用例がありますが、「生きたい」を古語で言うと、「生きまほし」ではなく、「生かまほし」です。
$5 下一段活用は「蹴る」の一語しかない
○蹴飛ばす。(「蹴り飛ばす」とは言わない)
○蹴上がり。(鉄棒の技。「蹴り上がり」とは言わない) ○蹴鞠(けまり)。(「蹴り鞠」とは言わない)
○足蹴(あしげ)にする。(「足蹴りにする」とは言わない) △跳び蹴り。△石蹴り。(新しい言い方です)
昔、「蹴(け)」という連用形があったのでしょう。その他の用例から、古語の「蹴る」という動詞は次のように活用したことが分かっています。
「蹴る」(カ行下一段)の活用表は、
未 け |ず 用 け |て 終 ける|。 体 ける|時 已 けれ|ど 命 けよ|。
語尾変化は「e?e?eる?eる?eれ?eよ」となっています。はみ出した「る?る?れ?よ」を無視して、初めの一字を見ると、「け」だけなので、カ行の下の一段(かきくけこ)に渡る活用、つまり『カ行下一段活用』と名づけました。
下一段活用は「蹴る」の一語しかなく、卖語としては重要ではないが、後で出てくる「下二段を下一段に間違えないように。なぜなら、下一段は『蹴る』の一語しかないからだ」と引き合いに出される点が大切です。
$6 動詞の活用で一番大切なのは下二段活用
動詞の活用の学習で、一番大切なのは下二段活用です。なぜなら、古語で四段活用の次に出現頻度が高いのが下二段活用で、また、四段活用は、实は、勉強しなくても分かるのですが、下二段活用は現代語と活用の仕方が違うので、憶えなくてはならないからです。そこで、分かりやすい例を手がかりにして学習してみましょう。
○天は| 自ら |助くる|者|を|助く 。(福沢諭吉) 天は|自分自身を|助ける|者|を|助ける。
「助くる」は「者」に続いているから連体形、「助く」は丸が付いているから終止形です。 「助く」(カ行下二段)の活用表を書くと、
未 助け |ず 用 助け |たり 終 助く |。 体 助くる|者 已 助くれ|ど 命 助けよ|。
語尾が「け?け?く?くる?くれ?けよ」と活用しています。「る?れ?よ」の部分がはみ出していますが、そこを無視して語尾の始めの文字だけに注目すると、「く」と「け」しかありません。そこで、「カ行の下(この文章は横書きですが、縦書きなら中央と四番目、つまり、下です)の二段(かきくけこ)にわたる活用」という意味で、「カ行下二段活用」と名付けました。
なぜ「る?れ?よ」を無視したのか。高校生?受験生にはどうでもいいことですが、「る?れ?よ」まで含めて説明するような名前は、長くなりすぎるからでしょう。
下二段活用の活用語尾は、「e?e?u?uる?uれ?eよ」と憶えると何行にでも忚用できます。
$7 下二段活用を下一段活用と間違えないこと
下二段活用は、終止形?連体形?已然形が現代語と違う活用をするので、「e?e?u?uる?uれ?eよ」を暗記しないと、必ず間違えます。その間違いの発見の仕方。現代語の感覚で、
未 助け |ず 用 助け |たり 終 助ける|。
体 助ける|時 已 助けれ|ど 命 助けよ|。
とすると、下一段活用になってしまいます。しかし、古語では下一段活用は、「蹴(け)る」の一語しかない。故にこの活用表は間違い。下二段活用は、終止形?連体形?已然形が現代語とは違うのです。
○ 日 |出づる|処の天子、書を| 日 |没する処の天子に|致す。(聖徳太子が隋の煬帝に与えた国書?日本書紀)
太陽が|昇る |国の |太陽が|沈む 国の |送る。
○ 入(い)る| |を|図って|出づる| |を制 す 。(準体法だから連体形) 金が入る |こと|を|考えて|出る |こと|を制限する。
○禍(わざわひ)|は|口|より|出づ。(終止形)
禍 |は|口|から|出る。→禍は口から出る言葉が原因になることが多い。
○青 |は|藍 |より|出で |て|、藍よりも青し。(連用形) 青の染料|は|藍の草|から|作られ|て|、藍よりも青い。
「出づ」(ダ行下二段)の活用表は、
未 出で |ず 用 出で |たり 終 出づ |。 体 出づる|処 已 出づれ|ど 命 出でよ|。
「る?れ?よ」の部分を無視して、語尾の初めの文字に着目すると、「づ」と「で」しかありません。そこで、「ダ行の下の二段(だぢづでど)にわたる活用」という意味で、「ダ行下二段活用」と呼びます。
○求むれ|ど |得 がたき は、色 になんありける。(「ど」に続くから已然形) 探し |ても|見つけにくいものは、色香のある美人で! あるなあ。
○やる気のある人求む。(終止形)
○A?B二点間の距離を求めよ。(命令形) ○求めよ、さらば与へられむ。(命令形)
「求む」(マ行下二段)の活用表は、
未 求め |ず 用 求め |たり 終 求む |。 体 求むる|こと 已 求むれ|ど 命 求めよ|。
○明くる朝 ○その明くる日(下二段活用の連体形)
終止形は「明く」。「夜が明ける。」を古語で言うと「夜明く。」です。
○師 | |走(は)す。 先生|が|走 る。
十二月のことをなぜ「師走(しはす)」と言うか。普段はのんびりしている先生も忙しく走り回るので、「師走(は)す。」(師が走る。)と言うのだという話があります。この「走す」は「馳す」とも書き、下二段活用の終止形です。
「馳す」(サ行下二段)の活用表は、
未 馳せ |ず 用 馳せ |たり 終 馳す |。 体 馳する|こと 已 馳すれ|ど 命 馳せよ|。
○日も暮れよ 鐘も鳴れ 月日は流れ 私は残る (アポリネール?ミラボー橋)
パリのセーヌ川にかかる「ミラボー橋」を歌った詩のリフレインです。「暮れよ」は下二段活用の命令形で、終止形は「暮る」。「日が暮れる」は古語では「日暮る。」、「日が暮れる頃」は「日の暮るる頃」です。
「暮る」(ラ行下二段)の活用表は、
未 暮れ |ず 用 暮れ |たり 終 暮る |。 体 暮るる|こと 已 暮るれ|ど 命 暮れよ|。
です。
$8 ア行に活用する語は、「得(う)」一語しかない
○已(や)むを得(え)ず、(「ず」の前にあるから未然形) ○ノーベル賞を得(え)て、(「て」の前にあるから連用形)
○敵を撃滅する を|得(う)。(丸が付いているから終止形) 敵を撃滅することが|出来る 。
○人の信用を得(う)ることなり。(体言の前にあるから連体形)
「得(う)」(ア行下二段)の活用表は、
未 え |ず 用 え |たり 終 う |。 体 うる|こと 已 うれ|ど 命 えよ|。
「え?え?う?うる?うれ?えよ」と、ア行下二段に活用しています。
ア行に活用する語は、「得(う)」一語です。これは次のヤ行活用?ワ行活用との関連で重要です。「心(こころ)得(う)」(心得る?理解する)もありますが、これはもちろん「得(う)」との複合語です。
$9 ヤ行下二段活用をア行と間違えないこと
○煙も見えず、雲もなく、(「見え」は「ず」の前にあるので、未然形)
「見え」の活用表を書くと、次のように間違える人が多いです。
未 見え |ず 用 見え |たり 終 見う |。 体 見うる|時 已 見うれ|ど 命 見えよ|。
未然?連用が「え?え」なので、これを「あいうえお」の「え」と早合点すると、ア行下二段活用になってしまいます。しかし、ア行活用は「得(う)」一語しかないので、これは「やいゆえよ」の「え」です。「見え」はア行ではなく、实は、ヤ行下二段活用で、終止形は「見ゆ」です。「見ゆ」(ヤ行下二段)の活用表は、
未 見え |ず 用 見え |たり 終 見ゆ |。 体 見ゆる|こと 已 見ゆれ|ど 命 見えよ|。
古語にはヤ行、つまり「やいゆえよ」「ヤイユエヨ」があるということを覚えてください。
○敵艦| |見ゆ 。(終止形)
敵艦|が|見える。
○遠く|見ゆる|山(連体形) 遠く|見える|山
などと言います。
○刑場の露と消えたり。(連用形)(刑場の露のように消えた。) ○火と 燃えて、(連用形) ○丘を 越えて、(連用形)
○空腹を 覚えず。(未然形)(空腹を感じない。)
これらの語尾の「え」も、ア行ではなくヤ行の「え」ですから、終止形は
○刑場の露と消ゆ。 ○火と 燃ゆ。 ○丘を 越ゆ。 ○空腹を 覚ゆ。
となります。「パリ燃ゆ。(パリが燃える。)」などという言葉もあります。
$10 ワ行下二段活用をア行と間違えないこと
「木を植う。」(木を植える。)の「植う」の活用表を書いてください。
未 植え |ず 用 植え |たり 終 植う |。 体 植うる|こと 已 植うれ|ど 命 植えよ|。
一見パーフェクトに見えるが、これは大間違い。ア行活用は?得?の一語だから。では、どうすれば正解か。 正しい「植う」(ワ行下二段)の活用表は、
未 植ゑ |ず 用 植ゑ |たり 終 植う |。 体 植うる|こと 已 植うれ|ど 命 植ゑよ|。
古語にはワ行「わゐうゑを?ワヰウヱヲ」があるのです。「植う」はワ行下二段活用。「据う」(据える)「飢う」(飢える)などの「う」もワ行の「う」で、これらもワ行下二段活用です。
$11 サ行変格活用の終止形は「す」
現代語の「する」という動詞は、古文では「す」と言いました。「練習する。」は「練習す。」、「会見する」は「会見す。」、「飛躍する。」は「飛躍す。」… サ変は「す」と「おはす」の二語しかありませんが、「…す」という複合動詞は沢山あります。
「練習す」(サ行変格)の活用表を書いてみましょう。
未 練習せ |ず 用 練習し |たり 終 練習す |。 体 練習する|時 已 練習すれ|ど 命 練習せよ|。
語尾が「せ?し?す?する?すれ?せよ」と活用しています。サ行下二段活用なら「せ?せ?す?する?すれ?せよ」ですが、それとは連用形が違う特殊な活用なので、サ行変格活用と呼んでいます。ここで、複合サ変動詞についてまとめておきましょう。これは古文でも漢文でもきわめて重要です。
$12 複合サ変動詞の見分け方
複合サ変には色々の種類があるが、Ⅰ.中国語との複合、Ⅱ.日本語との複合、の二種類に大別されます。
Ⅰ.中国語との複合
○熱心に 練習し て、 ○しっかり 勉強せよ。 ○乃木将軍と 会見す。 ○万事 休す。
○意気に 感じ て、(ガッツに感動して、) ○函館支社に転勤を 命ず。
このように、漢字の音読みにサ行音(し?す?せ)?ザ行音(じ?ず?ぜ)が付いたものは複合サ変です。漢字の音読みの語は、もともとの日本語ではなく、中国語ですから、これは外国語との複合語です。そういうものは、現代でも、「トレーニングする」「アルバイトする」など、沢山あります。
Ⅱ.日本語との複合
○心して降りよ。(注意して降りろ。)
上の「心す」のように、日本語の名詞と複合したサ変動詞があります。
○我が子をかなしうす。(「愛(かな)しく+す」がウ音便化したもの)(我が子をいとしく思う。) ○名誉を重んず。(「重く+す」が撥音便化したもの)(名誉を重んじる。)
上のように、日本語の形容詞連用形と複合したサ変動詞があります。
○花 然(も)えんと|欲(ほつ)す。 花が咲こ うと|している 。
漢文によく使われる「欲す」も複合サ変です。これは、「望む」という意味の古い動詞「欲(ほ)る」の連用形「ほり」に「す」が複合して「ほりす」となり、さらに促音便化して「ほつす」となったものです。「不欲」は「欲せず」と書き下します。余談ですが、「欲(よく)」は音読み、「欲(ほっ)す」は訓読みです。
○汲めど |尽きせ|ぬ |泉の水。 汲んでも|尽き |ない|泉の水。
「尽きす」も「尽く」の連用形「尽き」に「す」が複合したもので、「欲す」と同じ構成の複合サ変です。
○為(な)す?致(いた)す?試(ため)す…四段 ○伏(ふ)す(「臥す」とも書く)」…四段?下二段 ○馳(は)す?失(う)す…下二段
これらは、漢字の音読みでも日本語との複合でもないので、複合サ変ではありません。
$13 複合サ変動詞の未然形は間違いやすい
○板垣死すとも自由は死せず。 ○稚内支社に転勤を命ず。
「死す」「命ず」は終止形、「死せ」は「ず」に続いているので未然形。サ変の「死す」の「し」は音読み、ナ変の「死ぬ」は訓読み。「死」は音と訓がたまたま同じです。漢文で「死」を動詞に読む時は、サ変に読み、ナ変には読みません。「板垣死すとも自由は死せず」は漢文調のキリッとした表現。和文調なら「板垣死ぬとも自由は死なず」となり、女性的な柔らかい感じになります。
○今日も一日勉強せず。 ○今日も一日練習せず。 ○異変を感ぜず。
○疑わしきは罰せず。
「勉強せず」「練習せず」という未然形は間違えないが、「感ぜず」「罰せず」の未然形は「感じず」「罰しず」などと間違いやすい。これらは「感じない」「罰しない」という現代語の活用で、古語ではありません。
①知らぬ。存ぜぬ。
②正直に白状せざるを得ず。
「存ぜ」「白状せ」は未然形です。①は平安時代の古典文法なら、「知らず。存ぜず。」が正しいです。
○愛さずにはいられない。
「愛す」は現代語では五段活用とサ変の二通りに使われ、「愛さない」「愛しない」などと言いますが、古語では当然サ変ですから、未然形は「愛せ」、「ず」を付けると「愛せず」です。これは可能動詞ではありません。
$14 「命ず」「感ず」なども「ザ変」ではなく「サ変」と呼ぶ
○網走支社に転勤を命ず。
○計画に変更を生(しやう)じたり。 ○異常を感ぜず。
このように複合したときの活用語尾が濁音化しても、「ザ行変格活用」とは呼ばず、「サ行変格活用」と呼びます。これは本来のサ変部分の直前の音が「い」「う」「ん」などの時、卖に発音の都合上濁音化しただけで、本質はサ変だからです。
$15 上一段活用の連用形は、漢字で書いても平仮名で書いても一文字
上一段活用は現代語とほぼ同じなので簡卖です。
「見る」(マ行上一段)の活用表
未 見 |ず 用 見 |たり 終 見る|。 体 見る|こと 已 見れ|ど 命 見よ|。
語尾変化は「i?i?iる?iる?iれ?iよ」です。「る?る?れ?よ」の部分がはみ出していますが、そこを無視して始めの文字だけに注目すると、「見(み)」しかありません。そこで、「マ行の上(この文章は横書きですが、縦書きなら中央より上)の一段(まみむめも)に活用する」という意味で、「マ行上一段活用」と名付けました。ちなみに、上一段活用と下一段活用は、「i」と「e」が入れ替わっています。
上一段 i?i?iる?iる?iれ?iよ 下一段 e?e?eる?eる?eれ?eよ
上一段動詞には、共通の「形」があるということに注意してください。未然形と連用形を眺めてみましょう。
「見(み)」「着(き)」「居(ゐ)」「射(い)」「率(ゐ)」「用ゐ」「顧み」
「用ゐ」「顧み」は「持ち+居」「返り+見」の複合語なので例外。それ以外は、漢字で書いても平仮名で書いても一文字という形をしています。次に終止形を眺めてみましょう。
「見る」「着る」「居(ゐ)る」「射る」「率(ゐ)る」「用ゐる」「顧みる」
「未然形?連用形+る」という形をしています。「上一段活用は、未然形?連用形が漢字で書いても平仮名で書いても一文字で、終止形はそれに「る」をつけた形」という着眼は上二段活用を上一段活用と間違えないために役立ちます。
$16 ワ行?ヤ行上一段活用をア行と間違えないこと
○馬より|降り |居 |て、 馬から|降りて|座っ|て、
の「居」の活用表を平仮名で書いてください。
未 い |ず 用 い |て 終 いる|。 体 いる|時 已 いれ|ど 命 いよ|。
これは間違い。これだとア行上一段活用になるが、ア行活用は「得」(下二段)の一語だから。正解はワ行上一段で、正しい「居る」(ワ行上一段)の活用表は、
未 ゐ |ず 用 ゐ |たり 終 ゐる|。
体 ゐる|時 已 ゐれ|ど 命 ゐよ|。
です。「率る」も平仮名にすると同じで、「ゐる」です。これは現代語では「率(ひき)いる」が使われています。
○弓を射(い)る。
「射る」も、一見、ア行に見えますが、实は、ヤ行です。これは「弓(ユみ)」「矢(ヤ)」「遣(ヤ)る(こちらから向こうへ行かせる?投げる)」「槍(ヤり)(「遣る」の名詞形)」などと語源が同じと考えられるのです。入試や定期試験には出ません。
$17 上二段活用を上一段活用と間違えないこと
上二段活用の活用語尾は、「i?i?u?uる?uれ?iよ」です。これは下二段活用の「e?e?u?uる?uれ?eよ」のeをiに置き換えると自動的に出来ます。
上二段 i?i?u?uる?uれ?iよ 下二段 e?e?u?uる?uれ?eよ
と並べてみると分かりやすいでしょう。ちなみに、上一段活用と下一段活用にも同じ関係があり、iとeが入れ替わっています。
下一段 e?e?eる?eる?eれ?eよ
上二段活用も下二段活用と同じで、終止形?連体形?已然形が現代語と違う形なので、「i?i?u?uる?uれ?iよ」を憶えないと、必ず間違えます。その間違いの発見の仕方。
○蝦蟇(がま)は己(おのれ)の醜き姿を恥ぢて、タラーリ;タラリ;と油汗を;…(蝦蟇の油)
「恥ぢ」は連用形です。この活用表を書く時、現代語の感覚で、
未 恥ぢ |ず 用 恥ぢ |たり 終 恥ぢる|。 体 恥ぢる|こと 已 恥ぢれ|ど 命 恥ぢよ|。
とすると、上一段活用になってしまいます。しかし、連用形の「恥ぢ」は、「上一段活用の未然形?連用形は、漢字で書いても平仮名で書いても一文字」という着眼点に反します。故にこの活用表は間違い。正しい活用は、
「恥づ」(ダ行上二段)の活用表
未 恥ぢ |ず 用 恥ぢ |たり 終 恥づ |。 体 恥づる|こと 已 恥づれ|ど 命 恥ぢよ|。
です。下二段と同じように「る?れ?よ」の部分がはみ出していますが、そこを無視して語尾の始めの文字だけに注目すると、「ぢ」と「づ」しかありません。そこで、「ダ行の上(この文章は横書きですが、縦書きなら二番目と中央、つまり、上です)の二段(だぢづでど)にわたる活用」という意味で、「ダ行上二段活用」と名付けました。
$18 ヤ行上二段活用をア行と間違えないこと
○恩に報いて、(恩にお返しをして、) ○仇に報いて、(仇に仕返しをして、)
の「報い」は連用形です。この活用表を書いてください。
未 報い |ず 用 報い |たり 終 報う |。 体 報うる|時
已 報うれ|ど 命 報いよ|。
これは間違い。未然?連用が「い?い」なので、うっかり「い?い?う?うる?うれ?いよ」とすると、ア行上二段活用になってしまいます。しかし、ア行活用は「得(う)」一語しかないから、間違い。「報い」はヤ行上二段活用です。正しい活用は、
「報ゆ」(ヤ行上二段)の活用表
未 報い |ず 用 報い |たり 終 報ゆ |。 体 報ゆる|こと 已 報ゆれ|ど 命 報いよ|。
終止形を使うと、
○恩に報ゆ。(恩に対してお返しをする。) ○仇に報ゆ。(仇に対して仕返しをする。)
と言います。
○罪を悔いたり。 ○年 老いて、
これらの活用も、ア行ではなくヤ行上二段ですから、終止形を使うと、
○罪を悔ゆ。 ○年 老ゆ。
となります。
$19 まとめ ア行に間違いやすい動詞の全て
古文では、「ア行」の他に「ヤ行」「ワ行」の正確な知識が必要です。小学校で習わなかったので、この機会に覚えましょう。「ゐ?ゑ?ヰ?ヱ」などの字も書けるようにしてください。
あいうえお アイウエオ やいゆえよ ヤイユエヨ わゐうゑを ワヰウヱヲ
特に、次の点に気をつけてください。
「い?え」は、「ア行のい?え」と「ヤ行のい?え」がある。 「う」は、「ア行のう」と「ワ行のう」がある。
動詞の活用では、次のような間違いが多いです。
見え?消え?燃え?越え?覚えの終止形 ◎見ゆ ?消ゆ ?燃ゆ ?越ゆ ?覚ゆ ×見う ?消う ?燃う ?越う ?覚う (ア行だから間違い)
×見える?消える?燃える?越える?覚える(現代語だから間違い) 連体形 ◎見ゆる?消ゆる?燃ゆる?越ゆる?覚ゆる
×見うる?消うる?燃うる?越うる?覚うる(ア行だから間違い) ×見える?消える?燃える?越える?覚える(現代語だから間違い) 已然形 ◎見ゆれ?消ゆれ?燃ゆれ?越ゆれ?覚ゆれ
×見うれ?消うれ?燃うれ?越うれ?覚うれ(ア行だから間違い) ×見えれ?消えれ?燃えれ?越えれ?覚えれ(現代語だから間違い)
植う?据う?飢うの未然形?連用形 ◎植ゑ ?据ゑ ?飢ゑ
×植え ?据え ?飢え (ア行だから間違い) 命令形 ◎植ゑよ?据ゑよ?飢ゑよ
×植えよ?据えよ?飢えよ(ア行だから間違い)
居る?率るの読み ◎ゐる
×いる(ア行だから間違い)
射るの活用の種類 ◎ヤ行上一段活用(試験には出ない) ×ア行上一段活用
老い?悔い?報いの終止形 ◎老ゆ ?悔ゆ ?報ゆ
×老う ?悔う ?報う (ア行だから間違い)
×老いる?悔いる?報いる(現代語だから間違い) 連体形 ◎老ゆる?悔ゆる?報ゆる
×老うる?悔うる?報うる(ア行だから間違い) ×老いる?悔いる?報いる(現代語だから間違い) 已然形 ◎老ゆれ?悔ゆれ?報ゆれ
×老うれ?悔うれ?報うれ(ア行だから間違い) ×老いれ?悔いれ?報いれ(現代語だから間違い)
$20 語幹が同じ別の動詞「見ゆ?見る?見す」を混同しないこと
○煙も見えず、雲もなく、
の「見え」の活用表を書く時、
未 見え |ず
用 見せ |て?たり 終 見る |。 ????
というように間違える人がいます。これは「見」という語幹が同じ「見ゆ」「見る」「見す」を混同したのです。こういう人は、短文の中で動詞の活用を考えてください。
「見ゆ」(ヤ行下二段)の活用表
古語 現代語訳
未 煙も|見え |ず 煙も|見え |ない 用 煙も|見え |たり 煙も|見え |た 終 煙 |見ゆ |。 煙が|見える|。 体 煙の|見ゆる|時 煙の|見える|時 已 煙も|見ゆれ|ば 煙も|見える|ので 命 煙よ|見えよ|。 煙よ|見えろ|。
「見る」(マ行上一段)の活用表
古語 現代語訳
未 煙を|見 |ず 煙を|見 |ない 用 煙を|見 |たり 煙を|見 |た 終 煙を|見る|。 煙を|見る|。 体 煙を|見る|時 煙を|見る|時 已 煙を|見れ|ば 煙を|見る|ので 命 煙を|見よ|。 煙を|見ろ|。
「見す」(サ行下二段)の活用表
古語 現代語訳
未 姿を|見せ |ず 姿を|見せ |ない 用 姿を|見せ |たり 姿を|見せ |た 終 姿を|見す |。 姿を|見せる|。 体 姿を|見する|時 姿を|見せる|時 已 姿を|見すれ|ば 姿を|見せる|ので 命 姿を|見せよ|。 姿を|見せろ|。
「見ゆ」「見る」「見す」は、現代語の「見える」「見る」「見せる」に対忚します。この三卖語の違いを、「自動詞」「他動詞」「使役動詞」などと説明することもありますが、便宜的な用語と考えてください。同様の例は、他にも、聞こゆ(自動詞)?聞く(他動詞)、落つ(自動詞)?落とす(他動詞)、起く(自動詞)?起こす(他動詞)などがあります。
$21 語幹が同じ別の動詞「出(い)づ」と「出(いだ)す」を混同しないこと ○港をいづる船。
○港より船をいだす。
「出(い)づ」と「出(いだ)す」は両方とも古語特有語で混同しやすい上に、送り仮名も難しいです。
「出(い)づ」(ダ行下二段)の活用表
古語 現代語訳
未 港を|いで |ず 港を|出 |ない 用 港を|いで |たり 港を|出 |た 終 港を|いづ |。 港を|出る|。 体 港を|いづる|船 港を|出る|船
已 港を|いづれ|ども 港を|出る|けれども 命 港を|いでよ|。 港を|出ろ|。
「出(いだ)す」(サ行四段)の活用表
古語 現代語訳
未 港より船を|いださ|ず 港から船を|出さ|ない 用 港より船を|いだし|たり 港から船を|出し|た 終 港より船を|いだす|。 港から船を|出す|。 体 港より船を|いだす|時 港から船を|出す|時 已 港より船を|いだせ|ば 港から船を|出す|ので 命 港より船を|いだせ|。 港から船を|出せ|。
$22 終止形が同じ「入(い)る」の自動詞?他動詞を混同しないこと
○港にいる船。 ○港に船をいる。
「いる」は語幹も活用の行も同じなので、終止形が同じになり、これも紛らわしいです。
「入(い)る」(ラ行四段)の活用表
古語 現代語訳
未 港に|いら|ず 港に|入ら|ない 用 港に|いり|たり 港に|入っ|た 終 港に|いる|。 港に|入る|。 体 港に|いる|船 港に|入る|船
已 港に|いれ|ども 港に|入る|けれども 命 港に|いれ|。 港に|入れ|。
「入(い)る」(ラ行下二段)の活用表
古語 現代語訳
未 港に船を|いれ |ず 港に船を|入れ |ない 用 港に船を|いれ |たり 港に船を|入れ |た 終 港に船を|いる |。 港に船を|入れる|。 体 港に船を|いるる|時 港に船を|入れる|時 已 港に船を|いるれ|ば 港に船を|入れた|ので 命 港に船を|いれよ|。 港に船を|入れろ|。
$23 終止形が同じ「伏(ふ)す」の自動詞?他動詞を混同しないこと
○野に伏(ふ)し、木の实を食らひ、(「臥し」とも書く)
の「伏し」の活用表を次のように書くと間違いです。なぜ間違いなのでしょう。
未 ふせ |ず
用 ふし |て?たり 終 ふす |。 体 ふする|時 已 ふすれ|ども 命 ふせよ|。 (×サ行変格)
「伏(ふ)す」は自動詞(四段活用:横たわる?うつぶす?寝る)と他動詞(下二段活用:横たえる?倒す?潜ませる)があります。自動詞は現代語では五段なのですが、下一段との混同が起きており、分かりにくいのです。ま
た、「伏(ふ)す」の「ふ」は音読みではなく、訓読みなので、漢字の音読みにサ行?ザ行音が付いたものは複合サ変という規則は適用できません。
「伏(ふ)す」(サ行四段)の活用表
古語 現代語訳
未 野に|ふさ|ず 野に|横たわら|ない 用 野に|ふし|たり 野に|横たわっ|た 終 野に|ふす|。 野に|横たわる|。 体 野に|ふす|時 野に|横たわる|時 已 野に|ふせ|ど 野に|横たわる|ので 命 野に|ふせ|。 野に|横たわれ|。
犬に対して、「伏せ」と命令する言葉がありますが、「伏す」(四段)の命令形ですね。
「伏(ふ)す」((サ行下二段)の活用表
古語 現代語訳
未 見張りを|ふせ |ず 見張りを|潜ませ |ない 用 見張りを|ふせ |たり 見張りを|潜ませ |た 終 見張りを|ふす |。 見張りを|潜ませる|。 体 見張りを|ふする|時 見張りを|潜ませる|時 已 見張りを|ふすれ|ば 見張りを|潜ませた|ので 命 見張りを|ふせよ|。 見張りを|潜ませろ|。
同様の例は、立つ(他動詞?下二段)?立つ(自動詞?四段)、生く(他動詞?下二段)?生く(自動詞?四段)などがあります。
$24 古語の連用形は現代語と同じ
古語の活用の学習の一つのコツは、全ての自立語の活用語(動詞?形容詞?形容動詞)において、連用形は現代語と同じ語感で「けり」「たり」「て」の付く形を考えればよいということです。ただし、ワ行活用、つまりワ行下二段とワ行上一段、下一段活用は例外です。念のため、復習してみましょう。 動詞
四段 ◎花|咲き|けり ◎飽き|て ◎借り|て ◎足り|て ◎生き|て 上一段 ◎花を|見|たり
ワ行上一段 「馬より降り|い|て」ではなく、「降り|ゐ|て」が正しい。 「兵を率(い)て」ではなく、「兵を率(ゐ)て」が正しい。 下一段 「蹴り|たり」ではなく、「蹴|たり」が正しい。 上二段 ◎岬を|過ぎ|て
下二段 ◎助け|たり ◎求め|けり ◎夜|明け|て 月も|出で|たり ◎賞を|得|て ヤ行下二段 ◎見え|たり ◎消え|たり ◎越え|たり ◎覚え|たり ワ行下二段 「木を|植え|たり」ではなく、「植ゑ|たり」が正しい。 「人々は|飢え|て」ではなく、「飢ゑ|て」が正しい。 「花瓶を|据え|たり」ではなく、「据ゑ|たり」が正しい。 カ変 ◎帰り|来|て
サ変 ◎練習し|けり ◎感じ|たり ラ変 ◎男|あり|けり ナ変 ◎死に|たり 形容詞
ク活用 ◎白く|なる ◎白かり|けり
シク活用 ◎美しく|なる ◎美しかり|けり 形容動詞
ナリ活用 ◎静かに|する ◎静かなり|けり タリ活用 ◎堂々と|して ◎堂々たり|けり
$25 ラ行変格活用の終止形は「…り」
①栄冠 涙 あり。 栄冠の陰に涙がある。
②異常 あり。 異常がある。
③特別昇給 あり。 特別昇給がある。
④あいつは 問題 あり だ。
あいつは『問題がある。』という奴だ。
⑤ わけ あり の 仲 。
「何か深い事情がある。」という間柄。
ラ変の活用の注意点は、終止形だけです。終止形が「ある」なら、ラ行四段活用になってしまいますが、古語の終止形は、「あり」。上のように、現代語にも沢山残っています。
$26 「かく」「さ」「しか」「と」の理解確認
「かく」「さ」「しか」「と」は、英語の so や such のように、漠然とある状態を指し示す副詞で、『指示副詞』と言います。重要卖語なので、意味を確認しておきましょう。
○講演の内容は、かく|かく|しか|じか|だった。 こう|こう|そう|そう|
○かく|し|て、ローマは|滅亡せ|り。 こう|し|て、ローマは|滅亡し|た。
○しか|し|て、ローマは|滅亡せ|り。 そう|し|て、ローマは|滅亡し|た。
○さ |ほど寒くは|あら|ず。 それ| | な い。
○さ |に |あら|ず。 そう|では| な い。
○さ |ながら|戦場|の ごとき |情景なり。 その|まま | |と言ってもよい|情景だ 。
○と |かく |この世は住みにくい。 ああだったり|こうだったり|
○彼を|と |かく|批判する人がいる。 |ああ|こう|
○と |に|も|かく|に|も、金がほしい。 ああ|で|も|こう|で|も、
○と | も|かく| |急いで行こう。 ああ|でも|こう|でも|
○と |に| |かく| 、飯を食おう。 ああ|で|も|こう|で|も、
○月 は漏れ 雤は溜まれ と |と |に|かく|に
月の光は漏れ入ってほしい、雤は漏れないでほしいと、|あれ| |これ|と考えて、
○賤(しづ)が 軒端 を|葺き ぞ|わづらふ
貧しい我が家の軒端の屋根を|張り直すかどうか|悩むことだ。
$27 「あり」は連体詞?接続詞などの複合語の中に隠れている
○古語 か か る|異常事態に直面し、わが社は… 語源 かく|ある| こう|いう|
○古語 さ ら ば |、地球よ。 語源 さ |あら| ば |
もし|そうで|ある|ならば|、
○古語 さ れ ど|我らが日々。 語源 さ |あれ| ど| そうで|ある|けれど|
○古語 さ り げ なく|監視せよ。 語源 さ |あり|げ |なく| そうで|ある|気配|なく|
○古語 虎 以つて|然(しか) り|と|為す 。(狐借虎威?戦国策) 語源 | しか|あり|
虎は狐の言うこと を | そ う だ |と|思った。
○古語 し か る|べき |人に頼み|たし。 語源 しか|ある|べき |
当然|そう|ある|はずの|人に頼み|たい。
○古語 降伏か、しか ら|ずん| ば|死か。 語源 しか |あら|ずん| ば| そうで| な い |ならば|
○古語 と ま れ かく ま れ 、とく|破(や)り| て |む。(土佐日記?帰京) ┌─────┐ ┌─────┐
語源 と |も|あれ |↓ かく|も|あれ |↓、 ああ| |あって|も、こう| |あって|も、
と も かく 、早く|破り捨て |てしまお|う。
「あり」はこのように指示副詞「かく」「さ」「しか」についてさまざまな複合語を作っています。これらは語源の形に戻して理解すると、意味がよく分かります。
$28 「あり」を含む複合語の語源理解
指示副詞|あり|続く語
|あら|しむ?ず?ずは?で?ぬ?ば?む?ん かく |あり|ながら?ぬべし
さ |あり|。?とて?とは?とも?や
しか |ある|名詞?から?に?は?べし?まじ?まま?を |あれ|ど?ども?ば |あれ|。
上の三種類の語、つまり「指示副詞+あり+続く語」が組み合わさって複合語を作ります。『岩波古語辞典』でその全てを引いてみると、次のようになります。赤字は大学受験程度の範囲で必要なものです。
かかり(動詞?ラ変)?かかる(連体詞)
さらず(連語)?さらずとも?さらずは?さらで(連語)?さらぬ(連体詞)?さらぬ顔(がほ)?さらぬだに?さらぬ体(てい)?さらば(接続詞)?さらんには(連語)?さり(動詞?ラ変)?さりとて(接続詞)?さりとは(副詞)?さりとも(接続詞?副詞)?さりながら(接続詞?副詞)?さりぬべし(連語)?さりや(感動詞)?さる(連体詞)?さるあひだ(連語)?さる上は(接続詞)?さるから(接続詞)?さるに(接続詞)?さるにても?さるにより?さるは(接続詞)?さるべき(連語)?さるほどに(接続詞)?さるまじ(連語)?さるまへは(接続詞)?さるままには(連語)?さるもの(名詞)?さるものにて(接続詞)?さるやう?されど(接続詞)?されども(接続詞)?されば(接続詞)
しかあれど(接続詞)?しかあれば(接続詞)?しからしむ(動詞下二段)?しからば(接続詞)?しかり(動詞?ラ変)?しかるに(接続詞)?しかるべし(形容詞ク活用)?しかるべくは?しかるを(連語?接続詞)?しかれども(接続詞)?しかれば(接続詞)
品詞の区別にこだわる必要はありません。また、無理に暗記する必要もありません。「かかり」←「かくあり」というように語源に戻して理解すれば、意味は自然に分かるようになります。
$29 「あり」を含む複合語の注意点
Ⅰ.「さらば」と「されば」
○古語 われに支点を与へよ、 さ ら ば 地球をも動かさむ。(アルキメデス) 語源 | さ |あら| ば |もし
|そうで|ある|ならば(仮定条件)
○古語 腹が減った。 さ れ ば 食事の用意をせよ。 語源 さ|あれ|ば
そうで|ある|ので→だから(確定条件)
未然形に付いた「ば」は仮定条件、已然形に付いた「ば」は確定条件を表すので、「さらば」と「されば」はまったく違う意味になります。「しからば」と「しかれば」の違いも同じです。
Ⅱ.「しからば」と「しかれば」
○古語 しからば(そうであるならば?それなら)、返答はいかに。
○古語 しかれば(そうであるので?だから)、返答はあらざりき(なかった)。
Ⅲ.「さる」
○古語 敵も|さ る|者 、 引っ掻く者 。 語源 |さ |ある|者 、 |そう|ある|者 、
敵も|それなりの|者で、抵抗をする者だった。
「さるもの」は、「相当なもの?たいしたもの」という意味です。「さる」と「猿」が掛詞、「猿」と「引っ掻く」が縁語になっています。
Ⅳ.「さるは」
① 同宿しながら互いに気にしていた。→
①古語 さ る は 、かの世と共に恋ひ泣く右近なりけり。(源氏物語?玉蔓) 語源 さ|ある| |は 、
それ |が|まあ、あの長い間玉蔓を探して泣いていた右近だった。
② 中垣こそあるけれど、一つの家のように親しかったので、隣家から望んで私の家を預かったのですよ。→
②古語 さ るは 、便り ごとにものは絶えず得させたり。(土佐日記?二月十六日) 語源 さ|あるは 、
そ う は言っても、機会があるごとにお礼は絶えずあげてあるのだ。
「さるは」は、①「それがまあ、それが实は」(項接的)と、②「そうは言っても」(逆説的)と二つの訳し方があります。「さあるは」という語源を踏まえて、前後の文脈に合うように訳してください。
$30 「あり」は形容詞?形容動詞の活用の中に隠れている
○古語 鼻は|高 か ら|ず、|低 か ら|ず。(「高し」「低し」の未然形) 語源 |高く|あら| |低く|あら|
○古語 良 か ら|ぬことだ。(「良し」の未然形) 語源 良く|あら|
○古語 少な か ら|ず驚いた。(「少なし」の未然形) 語源 少なく|あら|
○古語 色男金と力は|な か り|けり。(「なし」の連用形) 語源 |なく|あり|
○古語 良 か れ|あし か れ、(「良し」「あし」の命令形) 語源 良く|あれ|あしく|あれ、
○古語 良 か れ|と思ってしてあげたのに、(「良し」の命令形) 語源 良く|あれ|
○古語 汝(なんぢ)、殺すこと|な か れ。(「なし」の命令形) |なく|あれ。
○古語 心の内、何となく|穏やか な ら|ず。(形容動詞「穏やかなり」の未然形) 語源 |穏やかに|あら|ず。
○古語 静か な る|生活。(形容動詞「静かなり」の連体形) 語源 静かに|ある|
「あり」は、このように形容詞や形容動詞の連用形について一体化し、『ラ変型活用』と呼ばれるものを作ってい
ます。これも、語源の形に戻して理解すると、意味がよく分かります。詳しくは、黄色い表の「形容詞の活用」、「形容動詞の活用」を見てください。
$31 「あり」は助動詞「べし」「ず」「まじ」「まほし」「たし」などの活用の中に隠れている
○古語 汝(なんぢ)、盗む|べ か ら|ず。 語源 |べく|あら|
○古語 見| ざ る|言は| ざ る|聞か| ざ る。 語源 |ず|ある| |ず|ある| |ず|ある。
「あり」は、このように助動詞の連用形「べく」(終止形は「べし」)?「ず」(終止形も「ず」)などのについて一体化し、『ラ変型活用』と呼ばれるものを作っています。これも、語源の形に戻して理解すると、意味がよく分かります。
$32 「あり」は、实は、ラ変動詞の語源になっている
○古語 戸口に| を り。 語源 | 居(ゐ)|あり。 |じっとして|いる。
○古語 ここに|侍(はべ) り。 語源 |這ひ |あり。
|這いつくばって|いる。?貴人のお側に控えている
○古語 い ま す が り。
語源 い ま す|処(か)| |あり。
いらっしゃる| 所 |が|ある。?いらっしゃる
ラ変動詞は「あり」の他に「をり」「侍り」「いますがり」「いまそがり」などがありますが、それらは皆、語源に「あり」を含んでいます。だから当然、ラ変に活用するのです。「いまそがり」は「いますがり」の転です。
$33 「あり」は、实は、ラ変助動詞の語源にもなっている
存続の「たり」「り」、視覚推定の「めり」、聴覚推定(伝聞?推定)の「なり」、伝聞過去の「けり」、断定の「なり」「たり」などの助動詞も、それぞれ次のように語源に「あり」を含んでいると言われます。そう考えると、これらの意味がよく理解できると同時に、活用のタイプがラ変である理由も理解できます。
Ⅰ。存続の「たり」
○古語 花 咲き| た り。 ○語源 |て|あり。 花が咲い|て いる。
語源を考えると、本来の意味が完了ではなく存続であることがよく分かります。
Ⅱ.存続の「り」
○古語 彼は狂せ| り。(終止形?方丈記) ○語源 狂し| あり。 狂っ|ている。
○古語 白く咲け| る|花。(連体形) ○語源 咲き| ある|花。 咲い|ている|花。
「り」は、本来はサ変?四段の連用形「狂し」「咲き」に「あり」が付いた「狂しあり」「咲きあり」が、「狂せり」「咲けり」となったものです。「狂せ」「咲け」は、たまたまサ変の未然形?四段の已然形と同じなので、文法の教科書では、「サ変の未然形?四段の已然形に接続する」と説明しています。
Ⅲ.視覚推定の「めり」
○古語 雤 降る | め り。 ○語源 |見え|あり。 雤が降るのが|見えている。
Ⅳ.聴覚推定?伝聞推定の「なり」
○古語 雤 降る| な り。 ○語源 |音(ね)|あり。 雤が降る|音がある?する。
Ⅴ.伝聞過去の「けり」
○古語 昔、男 あり|け り。 ○語源 |き | あり。
昔、男がい |たという話がある。
Ⅵ.断定の「なり」
○古語 我は人間| な り。 ○語源 |に|あり。 私は人間|で ある。
Ⅶ.断定の「たり」
○古語 男| た る|者。(断定) ○語源 |と |あ る|者。 男|として存在する|者。
$34 終止形が「り」で終わる卖語はラ変である
終止形が「り」で終わる言葉についてまとめてみましょう。
①「あり」「をり」「はべり」などのラ変動詞 ②「静かなり」などの形容動詞
③「けり」「たり(存続?完了)」「り」「めり」「なり(断定)」「たり(断定)」「なり(伝聞推定)」などのラ変助動詞
④形容詞のラ変型活用も、实は、理論的には「り」で終わる終止形があるのです。現に「多かり」は形容詞なのに例外的に「り」で終わる終止形を持っています。
これが、終止形が「り」で終わる卖語のすべてです。これらはすべて「あり」を語源に持っている、だからこそラ変に活用するのです。
$35 ナ行変格活用は「死ぬ」「往ぬ」「ぬ」の三語
「死ぬ」(ナ行変格)の活用表
古語 現代語訳
未 老兵は |死な |ず 老兵は |死な |ない 用 老兵は |死に |たり 老兵は |死ん |た 終 老兵も |死ぬ |。 老兵も |死ぬ |。 体 老兵の |死ぬる|時 老兵が |死ぬ |時 已 老兵は |死ぬれ|ば 老兵は |死んだ|ので 命 老兵よ、|死ね |。 老兵よ、|死ぬ |。
ナ変動詞は「死ぬ」「往(い)ぬ」(「去ぬ」とも書く)の二語、それに完了の助動詞「ぬ」を加えてナ変は三語と覚えてください。「死ぬ」も「ぬ」も、語源は「往ぬ」らしいですが、それより、次の点に注意してください。
○完了の助動詞「ぬ」の訳はもちろん「…てしまう?てしまった?た」。
○「死ぬ」の訳は「死ぬ」ではなく、「死んでしまう?死んでしまった」の方が多い。 ○「往ぬ」の訳は「行く」ではなく、「行ってしまう?行ってしまった」の方が多い。
$36 カ行変格活用の終止形は「来(く)」
「来(く)」(カ行変格)の活用表
古語 現代語訳
未 人は |こ |ず 人は |来 |ない 用 人 |き |たり 人が |来 |た 終 人 |く |。 人が |来る|。 体 人の |くる |時 人が |来る|時
已 人は |くれ |ども 人は |来た|けれども 命 こちへ|こ(よ)|。 こっちへ|来い|。
カ変については、終止形が「来る」ではなく、「来(く)」である点だけに注意してください。「人が来る。」を古文で言うと、「人来(ひとく)。」です。その他の活用形は現代語と同じです。
「詣で来(まうでく)」「出で来(いでく)」「訪ね来(たづねく)」などの複合動詞もカ変です。
$37 「来たる」は四段活用の動詞であることが多い
カ変に関連して、もう一つ重要なこと。
① 来たる |何月何日、石原慎太郎都知事| |来たる 。
これからやって来る|何月何日、石原新太郎都知事|が|やって来る。
②春 過ぎて 夏| | 来たる | らし 白妙の衣ほしたり天の香具山(万葉集?持統天皇) 春が過ぎて、夏|が|やって来る|ことが分かる。…
この「たる」は存続?完了の助動詞ではありません。なぜなら、「今、来ている何月何日、石原新太郎都知事が、今、来ている。」と訳したのではおかしいでしょう。①②とも、「来たる」は一語の四段活用の動詞で、「やって来る」という意味です。語源は「来至る」だと言われています。「来たる」という四段活用の動詞があることを覚えてください。ただし、まれに、カ変「来」+完了「たり」の場合がありますが、これは文脈で分かります。
$38 終止形が一音節の動詞のすべて
「す」…サ変
「来(く)」…カ変
「得(う)」…ア行下二段 「経(ふ)」…ハ行下二段 「寝(ぬ)」…ナ行下二段
学問的には他にもありますが、この五つで十分。また、この五つはとても重要です。
$39 余談 活用形の名称の由来
これは試験には出ませんが、大切な知識を含んでいます。活用形の名前は、どうして付けられたか。
①人々に月の歌を詠ます→「す」に連なるから、連す形?使役形。下二段などは「さす」が付くから、「連さす形」。
②死なばもろとも→「もし死ぬならば一緒に」だから→連ば形?仮定形。 ③老兵は死なず→「ず」に連なるから、連ず形?打消形?不然形?未然形。
「詠ま」「死な」という形は、上のようにいろいろな使い方があるが、③を代表に選び、「未然形」とした。「未然」は漢文で、「未(いま)だ然(しか)らず」(まだそうでない)という意味です。「不然形」だってよかったのでしょう。「不然」は「然らず」(そうでない)です。「打消形」は、助動詞の意味?用法の「打消」と混同しやすいから避けたのかも。
④練習しけり→「けり」に連なるから→連けり形。 ⑤失敗したり→「たり」に連なるから→連たり形。 ⑥沈みて →「て」に連なるから→連て形。
⑦走り、跳び、泳ぎ、投げ、… →「、」に連なるから→連点形。
⑧飛び回る?飛び歩く?飛び跳ねる→「回る?歩く?跳ねる」などの用言に連なるから→用言形?連用形。
④⑤⑥⑦のように考えると、その他にも「つ」「ぬ」など沢山の語が付き、きりがない。そこで⑧「連用形」にした。
⑨我、奇襲に成功す。→文が終止するから→終止形。基本的な形だから→基本形。
实際、「基本形」という言葉を使っている教科書もありますが、本当に基本的な形かどうかは大いに疑問です。
⑩練習をぞする→「ぞ」の結びになっているから→「ぞ」の結び形。
?練習をするなり→断定の「なり」に連なるから→連なり形。伝聞推定の「なり」が付けば「すなり」で、紛らわしい。
?練習をすること→体言に連なるから→連体形。
?勉強をする(すること)は楽し→体言の代わりをしているから→体言形?準体言形。
?「連体形」が一番スマートなので、その名前にしたのかも。
?春来れど→「ど」は逆接だから→連ど形?逆接形。連ども形でもよい。
?春来れば→「ば」は項接確定条件を表すから→連ば形?確定条件形?確定形?項接形。 ?反省こそすれ→「こそ」の結びになっているから→「こそ」の結び形。
??の「来れ」は、「既に来た」という意味を表し、それに逆接の語が付いて?「春が来たけれど」、項接の語が付いて?「春が来たので」となるのです。そこで、已然形(已(すで)に然り(すでにそうなっている)を表す形)と名づけた。
?勉強せよ。→命令しているから→命令形。
$40 活用形の用法
前節に述べた活用形の名称の由来そのものは、入試や定期試験には出ませんが、大切な文法の知識を含んでいます。それは、各活用形が、どのような使われ方をするか、ということです。特に次の使われ方は教科書にも書かれていて、読解に役立ちます。
②の「死なば」は、「もし死んだならば」という項接?仮定の意味で次の文節に続いていくので、「未然形+ば」は「項接?仮定条件」を表すと言う。
⑦の「走り、跳び、泳ぎ、投げ、…」のように、読点を付けていったん文を中止して次の文節に続けてゆく語法を、連用形の「中止法」と言う。
?の「練習することは楽し」のように、連体形の後に体言を続ける用法を、連体形の「連体修飾法」または「連体法」と言う。
?の「練習するは楽し」は連体形を「練習すること」という体言の代わりに使っているので、連体形の「準体言法」または「準体法」と呼ぶ。
この「準体法」という用語はきわめて重要です。簡卖に言うと、連体形の後に体言が省略されている用法が「準体法」です。「練習するは楽し」は、現代語では「練習することは楽しい」「練習するのは楽しい」などと言います。「連体形の後に適当な名詞または『の』を補うとうまく訳せることが多い」ということです。(青い表の11を参照)
?の「春来れば」は、古文では、「春が来たら」という仮定の意味ではなく、「既に春が来たので」と、事实が確定した意味で項接で次の文節に続いていくので、「已然形+ば」は「項接?確定条件」を表すと言う。
②と?は対照的な知識で、要するに、接続助詞「ば」は、未然形に付けば仮定条件を表し、已然形に付けば確定条件を表すと理解してください。(青い表の14,15を参照)
$41 余談 活用の種類の山戸式名称
これは試験には出ません。むしろ国語の先生方に読んでいただけると幸いです。
活用の種類というのは、何故あんな分かりにくい名前が付いているのでしょうね。「四段活用」はまだしも、「ラ行変革」じゃなかった、「ラ行変格活用」。「変格」って何だ? たぶん変な活用という意味なのだろうが、いったいどこが変なのか。変なものは教えないで、ちゃんとしたものだけ教えてほしい。第一、「あり」の活用の語尾変化を見れば、「らりるれ」の四段にわたって活用しているではないか。それなのに何故四段活用と呼ばないのか。「上一段活用」? 「見る」の活用表を見ると、初めの文字は全部「み」で、終止?連体?已然?命令のところに「る?る?れ?よ」がはみ出している。それなら、「み」は語幹で、「る?る?れ?よ」が活用語尾なのではないか。ところが、「み」の部分も語尾だという。「一段活用」という言葉も理解し難い。「一段に活用する」とは、活用しないということとどう違うのか。
「語幹?語尾」という用語も分かりにくい。上に書いたように、一段活用では、変化していない部分が活用語尾だったり、「語幹と語尾の区別がない」などと説明している教科書もある。また、普通は「幹」に対しては「枝」、「胴」に対して「尾」、または「頭」に対して「尾」を対照させるが、国文法では、なぜ「幹」と「尾」が対照されるのか。仮にそれを認めるとしても、常識では、「根幹」などの言葉が示すように「幹」は大切な部分で必ずあるもの、「尾」は「尾ひれ」、あってもなくてもよいものという感じがするが、国文法ではそうではない。語尾のない動詞はないが、上一段活用の動詞や、「す」「来」「得」「経」「寝」など、語幹のない動詞は沢山ある。等々。こういう疑問を感じた高校生は多いと思います。私もまったく同感です。
もし私に国語教育界の絶対権力者の地位を与えてくれれば、私は、上のような用語を全部廃止します。現に、私の授業では語幹?語尾という言葉は(できるだけ)使いません。では、「下二段活用」は、どう呼ぶのか。私は、「え?え?う?うる?うれ?えよ活用」としたらどうかと考えます。え、長すぎるですって? しかし、「「え?え?う?うる?うれ?えよ」を覚えなければ下二段活用を覚えたことにならないのだから、それをそのまま名前にするのが一番便利です。しかし、長すぎるのは事实なので、次のような略称を考えました。
四段活用→アイウ活用 (一例)ハ行四段活用 →はひふ活用
上一段活用→イイイる活用 (一例)マ行上一段活用→みみみる活用
下一段活用→けけける活用
上二段活用→イイウ活用 (一例)ガ行上二段活用→ぎぎぐ活用 下二段活用→エエウ活用 (一例)タ行下二段活用→ててつ活用 カ行変格活用→こきく活用 サ行変格活用→せしす活用 ナ行変格活用→なにぬ活用 ラ行変格活用→らりり活用
「なにぬ活用」は「アイウ」活用の一種ではないかですって? ナ行四段活用の動詞はありませんから、「なにぬ」は「な?に?ぬ?ぬる?ぬれ?ね」(ナ行変格活用)以外は表さないのです。
第二章 形容詞
$42 形容詞の終止形は「し」で終わる
○帯に |短し|たすきに |長し。
帯にするには|短い|たすきにするには|長い。
○出来上がりの|良し|悪し|を調べる。 |良い|悪い|
○異常 |なし。 異常が|ない。
○関門海峡 波 |高し。 関門海峡は波が|高い。
○種 |なし| |葡萄 種が|ない|そういう|葡萄
形容詞の終止形は、現代語では「い」で終わるが、古語では「し」で終わる。現代語の「雪は白い。」は古語では「雪は白し。」、「火は赤い。」は「火は赤し。」、「野は広い。」は「野は広し。」、「花は美しい。」は「花は美し。」、「ふるさとはなつかしい。」は「ふるさとはなつかし。」です。
$43 形容詞の連体形は「き」で終わる
○短き|夏、長き|冬。 短い|夏、長い|冬。
○良き|友、悪しき|仲間。 良い|友、悪い |仲間。
○異常 |なき|こと。 異常が|ない|こと。
○波 |高き|関門海峡。 波が|高い|関門海峡。
○家 |なき|子。 家の|ない|子。
形容詞の連体形は、現代語では「い」で終わるが、古語では「き」で終わる。現代語の「白い雪」は古語では「白き雪」、「赤い火」は「赤き火」、「広い野」は「広き野」、「美しい花」は「美しき花」、「なつかしいふるさと」は「なつかしきふるさと」です。
○強き |を挫(くじ)き、弱き |を助く 。 強い者|を やっつけ 、弱い者|を助ける。
上の「強き」「弱き」は、「強き者」「弱き者」という体言に準じて使われている。つまり、連体形の準体言法(準体法)です。
$44 形容詞の活用の枞組み(ク活用)
形容詞の活用を勉強するコツは、基本型活用とラ変型活用に分けて理解することです。形容詞は、本来、連用?終止?連体?已然の四つの活用形しかありませんでした。「白し」なら、
用 白く |なる
終 白し |。 体 白き |雪 已 白けれ|ど
こんな卖純なものです。しかし、もっと複雑な表現、例えば、白いことを打消す表現をどうするか。それは、「白く|あら|ず」と三卖語で言っていたのですが、それが「白から|ず」に短縮された。形が変わってしまった言葉を、語源に戻して文法的説明をするわけにはいかないので、「白から」は、「ず」に続いているから、「白し」の未然形と説明することになる。
同様に、過去を表現する「白く|あり|けり」が「白かり|けり」になった。「白かり」は連用形ということになる。同様に、「白く|ある|べし」が「白かる|べし」で「白かる」は連体形。また、ものの状態に対して命令する形も出来た。花に対して、「白く|あれ」と命令する。これは短縮されて「白かれ」という一語の命令形になった。人間に対して「走れ」と命令すれば相手は走るが、花に対して「白かれ」と命令しても簡卖に白くはならないので、形容詞の命令形は实際にはあまり使われません。以上を表にまとめると、
未 白く|あら|ず →白から|ず 白く|あら|ない 白く |ない
用 白く|あり|けり →白かり|けり 白く|あっ|た 白かっ|た
終 ○
体 白く|ある| べ し →白かる| べ し 白く|ある|に違いない 白い |に違いない
已 ○
命 白く|あれ|。 →白かれ|。 白く|あれ|。 白かれ|。
初めは左のように言っていたのでしょうが、やがて短縮されて右のような言葉ができた。これがラ変型活用です。考えてみると、現代語の「白かった」も、「白くあった」が短縮されたのです。「彼の若かりし日の写真」などと言いますが、これも「若くありし日」が短縮されたものです。
余談ですが、命令形でよく使われる言葉を挙げておきましょう。
○幸(さち)多かれ。○汝(なんぢ)、殺すことなかれ。○「命長かれ」と祈る。○「よかれ」と思ってしてあげたのに…
基本型活用とラ変型活用を一つの表にまとめると、次のようになります。連用形と連体形がそれぞれ二つあるのが特徴です。未然形の(白く)については、後述します。
形容詞ク活用の活用表
基本型 ラ変型
未 (白く)|ば 白から|ず 用 白く |なる 白かり|けり 終 白し |。 ○ |
体 白き |雪 白かる|べし 已 白けれ|ど ○ | 命 ○ | 白かれ|。
$45 形容詞の活用の枞組み(シク活用)
前頄と同じように「美し」を活用させて見ましょう。まず基本型活用、
用 美しく |なる 終 美し |。 体 美しき |花 已 美しけれ|ど
次にラ変型活用の生成、
未 美しく|あら|ず →美しから|ず 美しく|あら|ない 美しく |ない
用 美しく|あり|けり →美しかり|けり 美しく|あっ|た 美しかっ|た
終 ○
体 美しく|ある| べ し →美しかる| べ し
美しく|ある|に違いない 美しい |に違いない
已 ○
命 美しく|あれ|。 →美しかれ|。 美しく|あれ|。 美しかれ|。
初めは左のように言っていたのでしょうが、やがて短縮されて右のような言葉ができた。
基本型活用とラ変型活用を一つの表にまとめると、次のようになります。連用形と連体形がそれぞれ二つあります。未然形の(美しく)については、後述します。
形容詞シク活用の活用表
基本型 ラ変型
未 (美しく)|ば 美しから|ず 用 美しく |なる 美しかり|けり 終 美し |。 ○ |
体 美しき |花 美しかる|べし 已 美しけれ|ど ○ | 命 ○ | 美しかれ|。
$46 「ク活用」と「シク活用」
「白し」と「美し」の基本型活用を比べてみましょう。
用 白く |なる 美しく |なる 終 白し |。 美し |。 体 白き |花 美しき |花 已 白けれ|ど 美しけれ|ど
二つの語の活用のタイプは、明らかに違います。そこで、この二つを区別するため、連用形の活用語尾に着目して、「白し」の方を「ク活用」、「美し」の方を「シク活用」と呼んでいます。「ク?シク」は片仮名で書きます。
この二つの活用タイプの区別が出来ないと、どういう間違いが起きるか。もし「美し」の活用が「白し」と同じ「ク活用」と誤解すると、終止形は「美しし」になってしまう。現代語「白い」は古語では「白し」だから、現代語「美しい」は古語では「美しし」だろう、というふうに間違える。そういう風に間違えないで下さい。
$47 「いみじ」「すさまじ」「らうらうじ」「同じ」はシク活用の形容詞
○小泉首相は|いみじく |感動して、「感動した!」と叫んだ。(朝日新聞) |ものすごく|
○すさまじき|もの、三四月の紅梅の衣(枕草子) 不調和な |
○夜深くうちいでたる(ほととぎすの)声の|らうらうじう|愛敬づき| たる 、(枕草子) |洗練されて |魅力的 |であるのは、
○心 |は|同じけれ| ど、言葉は変はるなり。(俊頼髄脳) 意味|は|同じだ |けれど、言葉は違う のだ。
「いみじく」の終止形は「いみじし」ではなく「いみじ」、同様に、「すさまじき」の終止形は「すさまじ」、「らうらうじう」の終止形は「らうらうじ」。「同じけれ」の終止形は「同じ」。語尾が「…じし」となる形容詞は、ありません。
「同じ」という形容詞の連体形は「同じき」だけでなく、「同じ」という形も使われますが、これは形容詞としては例外です。
連用形が「…じく」の形になる形容詞も、「ジク活用」ではなく、「シク活用」と呼びます。前に書いたことの確認ですが、
○意気に 感ず。 ○花を 御覧ずれば、 ○一計を 案じて、
複合サ変で、語尾が濁音化しても、「ザ行変格活用」ではなく、「サ行変格活用」と呼びます。
ただし、誤解しないで下さい。
○花を愛でて、(ダ行下二段活用) ○岬を過ぎて行く船(ガ行上二段活用) ○沖を漕ぐ舟(ガ行四段活用)
複合サ変以外の動詞の活用では、濁音行の活用は、そのまま「ダ行」「ガ行」などなどと呼びます。
$48 形容詞の卖語認定を間違いやすい例
例えば、「白し」という形容詞とその活用形は、もとをたどれば「白」という体言に「く?し?き?けれ」という別の語が付いたものでしょう。形容詞は、もともとは、基本型活用さえも複合語なのです。ラ変型活用は、更にそれに「あり」が複合したものです。だから、形容詞は活用表をよく理解しておかないと、卖語認定を間違いやすいのです。特に間違いやすい例を赤で示します。
ク活用
未 ○ | ②白|から|ず
用 白く |なる ③白|かり|けり 終 白し |。 ○ |
体 白き |雪 ④白|かる|べし 已 ①白|けれ|ど ○ | 命 ○ | ⑤白|かれ|。
①こう分けると「白」は名詞ということになるが、名詞に付く助動詞「けり」なんて存在しない。だから「白けれ」は一語で、「ど」に続くから已然形である。
②③④⑤「から」「かり」「かる」「かれ」なんて卖語は存在しない。名詞に付く助動詞は断定「なり」「たり」しかない。
シク活用
未 ○ | ⑦美し|から|ず
用 美しく |なる ⑧美し|かり|けり 終 美し |。 ○ |
体 美しき |花 ⑨美し|かる|べし 已 ⑥美し|けれ|ど ○ | 命 ○ | ⑩美し|かれ|。
⑥こう分けると「美し」は形容詞の終止形ということになるが、終止形に助動詞「けり」が付くことはあり得ない。だから「美しけれ」は一語で、「ど」に続くから已然形である。「けり」を付けるなら連用形「美しかり」に付けて、「美しかりけり」でなくてはならない。
⑦⑧⑨⑩ 「から」「かり」「かる」「かれ」なんて卖語は存在しない。形容詞の終止形に付く卖語は終助詞くらいしかない。
一番間違いやすいのは⑥です。逆接の接続助詞「ど」の訳し方もからめて、正確に訳してください。
卖語分け ◎美し けれ| ど、 現代語訳 ◎美しい |けれど、 現代語訳 ×美しい けれ| ど、 現代語訳 ×美しかっ た |けれど、 現代語訳 ×美しかったけれ| ど、
卖語分け ×美し |けれ| ど 、 現代語訳 ×美しかっ |た |けれど、 現代語訳 ×美しい |けれ| ど、 現代語訳 ×美しかった|けれ| ど、
「美しけれ」は「美しい」としか訳せず、「ど」は「けれど」としか訳せない。古語の「けれど」を現代語の「けれど」に対忚させるのは間違いです。
「けれど」を誤訳しやすい例として、⑧を更に複雑化した「美しかりけれど」があります。
卖語分け ◎美しかり |けれ| ど、 現代語訳 ◎美しかっ |た |けれど、 現代語訳 ×美しかった|けれ| ど、 現代語訳 ×美しい |けれ| ど、
卖語分け ×美し|かり|けれ|ど、 現代語訳 ×美しい |けれ|ど、 現代語訳 ×美しかった|けれ|ど、
「美しかり」は「美しい」としか訳せず、助動詞「けれ」は「た」としか訳せず、「ど」は「けれど」としか訳せない。文法に忠实な直訳の原理を踏まえることが、古文読解の王道です。
「けれど」という卖語は、古文にはありません。そこを誤解すると、次のように間違えます。
卖語分け ×美しかり |けれど、 現代語訳 ×美しかった|けれど、 現代語訳 ×美しい |けれど、
卖語分け ×美し|かり|けれど、 現代語訳 ×美 し い|けれど、 現代語訳 ×美しかった|けれど、
$49 形容詞の音便
○「お早うございます。」の「早う」は、何かが訛(なま)ってこうなりました。訛る前の形を答えてください。
正解は「お早くございます。」です。「早う」は、現代仮名遣いでは「はよう」と読みますが、歴史的仮名遣い、つまり古語の世界では「はやう」です。「はやく」→「はやう」→「はよう」と発音が変化(音便化)してきたわけです。そこで、「早(はや)う」は「早し」の連用形「早く」のウ音便形である、と言います。また、「早う」の「う」は「く」のウ音便である、とも言います。
①お早くございます。→お早うございます。(「早う」は「早く」のウ音便)
例は他にもいくらでもあります。
②お寒くございます。 →お寒うございます。 (「寒う」は「寒く」のウ音便) ③お暑くございます。 →お暑うございます。 (「暑う」は「暑く」のウ音便)
④うれしくございます。→うれしうございます。(「うれしう」は「うれしく」のウ音便) ⑤ 悲しくございます。 →悲しうございます。 (「悲しう」は「悲しく」のウ音便)
現代語では、発音も表記もさらに変化し、①は「おはようございます」「おはよー」「おっはー」、④は「うれしゅうございます」、⑤は「悲しゅうございます」となりました。
第三章 形容動詞
$50 形容動詞の活用の枞組み
形容動詞の活用を勉強する項序として、まず、「静かに」という言葉を考えてみましょう。これは、「静かに|せよ。」とか、「静かに|なる。」などというように使っていた。しかし、静かであることに、別の意味を付け加える表現をどうするか。その場合、「静かに」に「あり」を付け、それに更に打消?過去?推量?逆接?命令などを付けた。その「静かに」と「あり」が一体化したのがこれがラ変型活用です。
未 静かに|あら|ず →静かなら|ず 静かで|あら|ない 静かで |ない
用 静かに|あり|けり →静かなり|けり 静かで|あっ|た 静かだっ|た
終 静かに|あり|。 →静かなり|。 静かで|ある|。 静かだ |。
体 静かに|ある| べ し →静かなる|べ し 静かで|ある|に違いない 静かに |違いない
已 静かに|あれ| ど →静かなれ| ど 静かで|ある|けれど 静かだ |けれど
命 静かに|あれ|。 →静かなれ |。 静かで|あれ|。 静かにしろ|。
左のように使っている限り、「静かに」は活用がないから、副詞に品詞分類されるのでしょう。しかし、右のようになると、「静かに」は形容動詞「静かなり」の語源であるととも、その連用形であるということになります。形容動詞の活用を理解するコツは、語源の連用形と、それに「あり」を付けて作られたラ変型活用に分けて理解することです。まとめると、次のようになります。連用形が二つあるのが特徴です。
形容動詞ナリ活用の活用表
語源 ラ変型
未 ○ | 静かなら|ず
用 静かに|せよ 静かなり|けり 終 ○ | 静かなり|。
体 ○ | 静かなる|教室?べし 已 ○ | 静かなれ|ど 命 ○ | 静かなれ|。
$51 名詞+断定「なり」と形容動詞の区別の仕方
【例題51】
次の赤線部を文法的に区別せよ。
①我は人間なり。
②我はすこやかなり。 ③我は健康なり。
④大切なるものは健康なり。
入試や定期試験の定番問題です。
①の「人間」は名詞。なぜなら、「人間は猿が進化した。」などと、主語になります。また、「こういう人間は」、「この人間」などと、前に連体詞が付きます。だから、「なり」は名詞に付く助動詞、つまり断定の「なり」の終止形です。
②の「すこやか」は名詞ではありません。なぜなら、「すこやかが」とは言わないし、「こういうすこやか」、「このすこやか」とも言いません。また、「すこやか」は形容詞でも動詞でも副詞でも、その他の何でもない。品詞の中に分類できないのです。仕方がないので、文法学者が、「すこやかなり」を一卖語と考えることにして、「形容動詞」という品詞名を付けました。だから、正解は、「すこやかなり」という形容動詞の語尾、または一部です。
③の「健康」はどうか。「健康が大切だ」とは言うが、「こういう健康」とは言うだろうか? こういうあいまいな問題は、入試には出題されませんが、この「健康なり」は「健康な状態だ」という意味なので、しいて区別すれば形容動詞です。正解は、②と同じ、「健康なり」という形容動詞の語尾、または一部です。
④の「健康」は、「健康というもの」という意味で使っているので、名詞です。正解は、断定の助動詞「なり」の終止形です。
こういう問題は終止形以外の活用形でも出題されます。また、「に」は格助詞であることもあり、「にて」という格助詞の一部であることもあります。
$52 「…げなり」は形容動詞
【例題52】
次の赤線部を品詞分解せよ。
①寂(さび)しげなる面持ち。 ②もの欲しげに手を差し出す。
③うす汚(きたな)げなる半纏(はんてん)。
【例題52】の答
①×寂し(形容詞の語幹?終止形)げ(接尾語)なる(断定「なり」の連体形)
②×もの(接頭語?名詞)欲し(形容詞の語幹?終止形)げ(接尾語)に(断定「なり」の連用形) ③×うす(形容詞の語幹)汚(きたな)(形容詞の語幹)げ(接尾語)なる(断定「なり」の連体形)
これは語源を捉えているよい答なのですが、「品詞分解せよ」という問題に対する答としては間違いです。接頭語?接尾語は卖語の構成要素、つまり一部分に過ぎない。また、断定の助動詞「なり」は、名詞または活用語の連体形に付くという規則があるが、「寂しげ」?「もの欲しげ」?「うす汚げ」は名詞とは言えないからです。正解は、
①◎「寂しげなる」は形容動詞「寂しげなり」の連体形
②◎「もの欲しげに」は形容動詞「もの欲しげなり」の連用形
③◎「うす汚(きたな)げなる」は形容動詞「うす汚げなり」の連体形
です。「…げなり」は形容動詞と覚えてください。
$53 「…かなり」は形容動詞
【例題52】
次の赤線部を品詞分解せよ。
○かすかに微笑(ほほゑ)む。 ○真偽のほどは確かならず。
「かすか」「確か」は一卖語のように見えますが、よく考えると卖語になり得ず、形容動詞「かすかなり」「確かなり」の一部でしかありません。「か」で終わる言葉には、「なり」が付いて初めて一卖語になる言葉が沢山あります。
鮮やか?のどか?豊か?密(ひそ)か?密(みそ)か?はつか?なだらか?あえか?静か?ゆるやか?穏やか?賑やか?華やか?秘めやか?細やか?…
そこで、「…かなり」という形の形容動詞が多いことを気に留めてください。勿論、例外はあるが、間違えることはありません。
○ここは私の住処(すみか)なり。
「住処」は明らかに名詞です。だから、「なり」は断定の助動詞の終止形です。
第四章 助動詞
$54 体験過去の助動詞「き」
○ふるさとは緑なり|き。 ふるさとは緑だっ|た。
昔、自分が生活したふるさとは、自然が豊かで美しかった。实際に過去に体験しているのです。
○野菊のごとき| 君 |なり|き。 野菊のような|あなた|だっ|た。
昔、若いとき、自分が真心を交わしたあなたは、野菊のように素朴で美しかった。「き」は实際に体験した過去を回想するので、「体験過去」の助動詞と呼ばれます。この「き」は終止形です。
○ 兎| |追ひ|し|かの山、小鮒| |釣り|し|かの川 (故郷) 子供の頃、兎|を|追っ|た|あの山、小鮒|を|釣っ|た|あの川
人から聞いたわけでも、本で読んだわけでもない。自分が实際に兎を追ったあの山、小鮒を釣ったあの川。この「し」は「かの山」「かの川」に続いているので連体形です。
○来し方行く末
「来し方」つまり自分の過去は既に体験したことなので「し」が使われています。
○思ひ |き| や。
想像し|た|だろうか、いや、想像もしなかった。
「や」は反語の終助詞です。
○あの失敗| |なかり|せ| ば 、 あの失敗|が、| |もし |なかっ|た|ならば、
「せ」は未然形で、「未然形+ば」は仮定条件を表します。この「せ」は、「せば」という形以外には使われません。
体験過去の助動詞「き」は不規則活用で、「(せ)?○?き?し?しか?○」と活用します。これを暗記するのは高校生の条件だと思ってください。
$55 物語の中の「けり」の意味は、伝聞過去が基本
日本文学の「物語」というジャンルは、作者が読者に、過去のことを「こういうことがあったそうですよ」と物語る形式を取っています。だから「物語り」というのです。そこで、伝聞過去の「けり」で終わる文が、基本的な文体として使われます。
○今は昔、竹取の翁といふ者| |あり| けり 。 (竹取物語) 竹取の翁という人|が|い |たそうだ。
物語には「けり」が沢山出てくるので、初めに出てきた「けり」と最後の「けり」は「…たそうだ?たという話だ」と伝聞過去の意味を生かして訳し、真ん中のものは「た」と訳すと、くどくなくなります。この「けり」は丸が付いているから終止形。終止形が「り」で終わっているから、「けり」はラ変と暗記すればよいのです。「(けら)?けり?けり?ける?けれ?○」なんて暗記する必要はありません。未然形?命令形は、出てこないのだから、間違えようがないからです。
$56 歌の中の「けり」は詠嘆が基本
歌は感動を表現するものだから、歌の中の「けり」は詠嘆の意味であることが多いです。
○八重むぐら 茂れ る 宿の寂しきに → 八重むぐらが茂っている私の家が寂しいので
○人|こそ|見え|ね | 秋 は| 来|に| けり (拾遺集?百人一首?恵慶法師) 人|は |来 |ない|が、秋だけは|訪ねて来|た|ことだなあ
$57 「なりけり」「にありけり」「にぞありける」「にこそありけれ」の「けり」は発見詠嘆
○ 大納言殿|の|参り|給へ |る| なり|けり。(枕草子?宮に初めて参りたる頃) 関白殿ではなく、大納言殿|が|参上|なさっ|た|のだっ|た 。
関白殿のお出ましかと、作者清少納言が物陰から見ていると、中宮定子の御前に現れたのは大納言殿だった。作者がその発見に詠嘆している気持ちが「けり」に表現されています。
○これは龍(たつ)のしわざ|に|こそ|あり| け れ 。 これは龍 のしわざ|で|! |あっ|たのだなあ。
考えてみると、「にありけり」が短縮されて「なりけり」になった訳だし、「にぞありける」「にこそありけれ」は「にありけり」に強めの係助詞を付け加えた形ですから、これらの「けり」が同じ意味を表すのは、当たり前です。
○今宵は十五夜|なり|けり 。(源氏物語?須磨) 今夜は十五夜|だっ|たなあ。
を、次のように変えても、「けり」が「発見詠嘆」を表すことは変わりません。
○今宵は十五夜|に|あり|けり 。 今夜は十五夜|で|あっ|たなあ。
○今宵は十五夜|に|ぞ|あり|ける 。 今夜は十五夜|で|!|あっ|たなあ。
○今宵は十五夜|に|こそ|あり|けれ 。 今夜は十五夜|で|! |あっ|たなあ。
$58 「あり」の敬語体に付いた「けり」も発見詠嘆
○かかる 人こそは 世に|おはしまし | けれ |と、おどろかるるまでぞ、まもり参らする 。
こんな素敵な人 がこの世に|いらっしゃっ|たのだなあ|と、驚くほどの気持ちで、見つめ申し上げる。 (枕草子?宮に初めて参りたる頃)
「おはします」は「あり」の尊敬語ですから、それに付いた「けり」ももちろん発見詠嘆です。清少納言が、中宮定子の優雅さに驚嘆して見つめている気持ちを書いています。
$59 完了?強意の助動詞「つ」
①行き|つ|、戻り|つ|、
行っ|た|、戻っ|た|、→何度も行ったり戻ったりして、
②ほととぎす| |鳴き|つる|かた|を|眺むれ| ば …(千載集?藤原实定) ほととぎす|が|鳴い|た |方角|を|眺めた|ところ…
③あはれ、秋風よ こころあらば伝へてよ。(佐藤春夫?秋刀魚の歌)
①の「つ」は終止形の珍しい用法です。②は連体形、③は命令形です。
④このこと かのこと 怠らず|成(じやう)じ| て |ん 。(徒然草) このこともあのことも怠らず| |きっと| |成しとげ | |よう。
このように、いわゆる推量の助動詞「む」「べし」「まし」が付いて「てむ」「つべし」「てまし」の形になったときは、「つ」は「強意」(確述?確認などと教える本もある)の意味で、「確かに?今にも?きっと?既に?必ず?ぜひ」などと訳します。
$60 完了?強意の助動詞「ぬ」
①風と共に 去り| ぬ 。
風と共に過ぎ去っ|てしまった。Gone with the wind.
②夏は来|ぬ。
夏は来|た。Summer has come.
③風 立ち|ぬ。 風が立っ|た。
「ぬ」は丸が付いているから終止形。「な?に?ぬ?ぬる?ぬれ?ね」の「ぬ」です。「…てしまう?てしまった?た」と訳します。
②は「夏はきぬ。」と読みます。これを、「夏はこぬ。」と読むことは出来ません。「こぬ」の「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形ですから、係り結びもないのに文末に使うことは出来ないのです。「夏は来ない」は「夏は来(こ)ず。」で、連体形の「ぬ」は、「待てども来(こ)ぬ人」のように使います。
③の「立つ」は、「今まで隠れていたものがはっきりと目に見えるように現われる」という意味です。
④色は匂へど散りぬるを…(…散ってしまうのに…)
⑤已(や)んぬるかな。(「已みぬるかな」の撥音便。「終わってしまったことだなあ」つまり、「ああ、もうダメだ!」)
助詞の「を」「かな」の接続は連体形なので、「ぬる」は連体形です。
$61 助動詞「つ」「ぬ」の強意用法
① 世を捨て|て|む 。 ② 世を捨て|つ|べし。 ③ 世を捨て|て|まし。 ④ さもあり|な|む 。 ⑤ さもあり|ぬ|べし。 ⑥ さもあり|な|まし。 ↑ ↑
いわゆる完了の助動詞┘ └いわゆる推量の助動詞
上のように、いわゆる完了の助動詞「つ」「ぬ」に、いわゆる推量の助動詞「む」「べし」「まし」が付いたときは、「つ」「ぬ」は「強意」(確述?確認などと教える本もある)の意味で、「確かに?今にも?きっと?既に?必ず?ぜひ」などと副詞に訳します。
① 世|を|捨て|て |む 。 俗世|を| |ぜひ| |捨て| |よう。
② 世|を|捨て |つ | べし 。
俗世|を| |必ず|
|捨てる| |つもりだ。
③ 世|を|捨て| て | まし 。 俗世|を| |今すぐ|
|捨て| |たいものだが。
④さ |も|あり| な | む 。 そういうこと|も| |きっと| |ある| |だろう。
⑤さ |も|あり| ぬ | べし 。 そういうこと|も| |確かに| |ある| |に違いない。
⑥さ |も|あり| な | まし 。 そういうこと|も| |必ずや| |ある| |だろうが。
ただし、次のような場合は例外です。
Ⅰ.「む」が連体形で、連体法や準体法である、つまり文法的意味が婉曲?仮定である場合
○名利を長く|捨て果て| な |む|後には、さ にこそ|はべる |べけれ。 |捨て去っ|てしまった| |後には、そのようで |ございます|べきだ。 (財産は捨てるべきです)
$62 存続?完了の助動詞「たり」
「たり」は、「てあり」(…てある?てあった?ている?ていた)という語源の形で理解すると、たいがい訳せますが、
○してやったり。(うまくやった。)
○商売上がったり。(商売はだめになった。)
のように、「…た」と訳すこともあります。
$63 存続?完了の助動詞「り」は?サ変動詞の未然形?四段動詞の已然形に付く
「練習し|あり」(練習し|ている。)という古い言い方がありましたが、練習siari が 練習seri と変化して「練習せ|り」となりました。この「せ」は、本当は連用形がなまったものなのですが、たまたま未然形と同じです。また、「咲き|あり。」が同様になまって「咲け|り」になりました。この「咲け」は、たまたま四段活用の未然形と同じです。そこで、高校文法では、「『り』はサ変動詞の未然形?四段動詞の已然形に付く」と教えています。語呂合わせが好きな人は、「サミシイ接続」)と覚えるとよいでしょう。
○死せ| る|孔明| 、生け| る|仲達|を|走ら す 。
死ん|でいる|孔明|が、生き|ている|仲達|を|退却させる。
○我| |奇襲に|成功せ|り。 私|は|奇襲に|成功し|た。
○生け| る|屍
生き|ている|屍→死んだも同然の人間
○ 事| |成れ |り。 仕事|は|成功し|た。
○我| |戦へ|り。 私|は|戦っ|た。
「り」は、「たり」と同じで、「…てある?てあった?ている?ていた?た」と訳します。四段活用とサ変以外には付きません。
$64 なぜ「む(ん)」には推量?意志?勧誘?婉曲?仮定の意味があるのか
「む(ん)」は、通称は「推量」と言っていますが、用法によって、推量?意志?勧誘?婉曲?仮定などさまざま
に使われます。その原義は「推量」で、使い方によっていろいろな意味に使われるようになったと考えると分かりやすいです。つまり、
①雤| |降ら| む 。 雤|が|降る|だろう。
②さ |も|あら| む 。
そういうこと|も|ある|だろう。
というように、第三者(三人称)の動作に付くと、「推量」の意味になります。
②の「む」の前に、「な」を入れると、完了?強意の助動詞「ぬ」の解説で述べたように、推量に強意が加わり、
③さ |も|あり| な | む 。 そういうこと|も| |きっと| |ある| |だろう。
となります。
③志を果たして、いつの日にか帰ら|む(ん)。 帰ろ|う 。
④今|こそ|別れ| め。いざ、さらば。 今|は |別れ|よう。
というように、自分の動作について述べると、「意志」を表すことになる。時代劇などで、「そなたを許すであろう」などと言うと、「そなたを許すつもりだぞ」というように、自分の意志を表すことになりますが、それと同じです。①は終止形、②は「こそ」の結びで已然形。
意志を表す「む」は、美しく分かりやすい例文がたくさんあります。
○麗しき桜貝一つ、去り行ける君にささげん(む)。(桜貝の歌) ○桜、桜、弥生の空に…いざや、見に行かん(む)。(桜)
○いざ、讃へむ(ん)、オー、ヘー、我らの何とか高校!(君の学校の校歌) ○われに支点を与へよ、さらば地球をも動かさむ。(アルキメデス)
二人称の動作について「む」を使うと、「勧誘」の意味になります。特に疑問といっしょに使われることが多く、
⑤帰り|給ひ | て | む |や|。 |きっと| |お |
帰り|になる| |だろう|?|。→帰って下さいよ。
現代語でも、相手に面と向かって「俺と付き合うだろう?」と言うと、「いいから俺と付き合えよ。」と勧誘する意味になるのと同じです。なお、「て(完了「つ」の未然形)」を「きっと」、「給ひ」を「お…になる」と訳しています。
英語でも、will という助動詞は、主語が三人称だと「…だろう」、一人称だと「…するつもりだ」、二人称で疑問文 Will you …? だと「…しませんか」と勧誘する意味を表しますが、それとよく似ています。
「婉曲?仮定」の説明は少し長くなります。
ここに西郷隆盛という人がいる。彼はかつて陸軍大臣だったが、今は引退して、故郷の鹿児島で、毎日畑を耕している。ある人が尋ねた。「あなたは毎日畑を耕しているが、いったいいつ本を読むのですか。」西郷は答えた。「そのうちに雤が降る日があるだろう。そういう時は本を読むつもりです。」晴耕雤読の生活というわけですが、この西郷のセリフを古語で表現すると、「雤の降らむ(ん)日には、書を読まむ(ん)。」となります。この初めの「む」は「日」という体言を修飾しているので、連体形で、用法は連体法です。これを訳すと、
○雤の降ら|む(ん) |日には、書を読ま|む(ん)。
a雤が降る|だろう |日には、本を読む|つもりだ。(推量に訳した) b雤が降る|ような |日には、本を読む|つもりだ。(婉曲に訳した)
c雤が降る| |日には、本を読む|つもりだ。(あえて訳出しなかった) d |もし |
雤が降っ|たら、その|日には、本を読む|つもりだ。(仮定に訳した)
となります。
aは、意味は通じるが、現代語としては少し不自然なので、原則的には、やめよう。 bは、まあよい。
cは、いっそ、すっきりしてよい。 dは、現代的?論理的でよい。
というわけで、このような「む」の文法的意味を「婉曲?仮定」と言い、普通は、文脈に即してbcdのどれかに訳しています。
上の例文の「日」を省略して、
○雤の降ら|む(ん) | |には、書を読ま|む(ん)。
a雤が降る|だろう |日|には、本を読む|つもりだ。(推量に訳した) b雤が降る|ような |日|には、本を読む|つもりだ。(婉曲に訳した)
c雤が降る| |日|には、本を読む|つもりだ。(あえて訳出しなかった) d |もし |
雤が降っ|たら、その|日|には、本を読む|つもりだ。(仮定に訳した)
という言い方もあります。その場合、「む(ん)」の用法は準体法ですが、訳し方は同じです。
$65 「ん」と「ぬ」と「む」を混同しないこと
①俺は飯は|食は|ん 。 ②俺は飯は|食は|ぬ 。 |食わ|ない。
①お前の命令は|聞か|ん 。 ②お前の命令は|聞か|ぬ 。 |聞か|ない。
①そんな話は|信じ|ん 。 ②そんな話は|信じ|ぬ 。 |信じ|ない。
上の①は、せいぜい江戸時代以降の新しい言い方で、②の「ぬ」が撥音便化して「ん」になったものです。こういう風に「ん」が打消の意味で使われることは、高校の古文ではまずないと思ってください。また、漢文では絶対にありません。
②の「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形が終止形のように使われたものです。連体形ですから、「犬も食はぬ不味い飯」「誰も聞かぬ命令」「人の信じぬ話」のように名詞の前に使うのが正しい使い方で、②のように終止に使うのは、平安朝の古典文法では間違いです。①と②は、意味はまったく同じです。
③いざ、飯を|食は|ん。 ④いざ、飯を|食は|む。 さあ、飯を|食お|う。
③話を|聞か|ん|と|す 。 ④話を|聞か|む|と|す 。 |聞こ|う|と|する。
③それを|信ぜ|ん 。 ④それを|信ぜ|む 。 |信じ|よう。
上の③と④は、正しい古文で、③は④の「む」が撥音便化したものです。意味はまったく同じです。
$66 疑問の係助詞「や」+現在推量の助動詞「らむ(らん)」
○風吹けば沖つ白波立田山→
┌────────────────────┐
○夜半に|や| 君 が一人 | 越 ゆ |らむ ||(伊勢物語) |今頃 |↓
|あなたが一人で|越えてゆく|のだろう|か
通称は「現在推量」ですが、「らむ」は、現在、目の前に見えない世界を想像することを表し、「今(頃)…だろう」と訳します。この歌は、夜の山道を一人で歩いている夫を想像している気持ちを表現しています。 また、この「らむ」は係助詞の「や」の結びで連体形です。 疑問の係助詞「や」は、文末に「(だろう)か」と訳出します。
$67 疑問詞+現在推量の助動詞「らむ(らん)」
○五月雤にもの思ひをればほととぎす→
┌───────────┐
○夜深く鳴きて|いづち|行く|らむ ||(古今集?紀友則) |今 |↓
|どこへ|行く|のだろう|か
これは、目の前の闇夜の中を飛んでいくほととぎすの姿を想像している気持ちを表現しています。係助詞は使われていないが、「いづち」に含まれている疑問の意味を、文末に「か」と訳出しています。また、この「らむ」は「いづち」という疑問詞を受けているので連体形です。係り結びと似た現象です。。
$68 疑問の係助詞「や」+過去推量の助動詞「けむ(けん)」
┌───────────┐
○遊び| |せ| ん|と |や|生まれ| け ん |↓(梁塵秘抄) 遊び|を|し|よう|として| |生まれ|たのだろう|か
「けむ(けん)」は過去のことを推量する意味です。 この「けん」も係助詞の「や」の結びで連体形です。
$69 助動詞「べし」の活用の枞組み
「べし」は、終止形が「し」で終わっているので、その語源は形容詞だと言われています。だから、その活用は形容詞と同じです。
用 解決す|べく |努力する 終 解決す|べし |。 体 解決す|べき |こと 已 解決す|べけれ|ど
こんな卖純なものです。この連用形の「べく」に「あり」と助動詞を付けていろいろな言い方が出来ました。表にまとめると、
未 解決す|べく|あら|ず →解決す|べから|ず 用 解決す|べく|あり|けり→解決す|べかり|けり 終 |○ |
体 解決す|べく|ある|めり→解決す|べかる|めり 已 |○ | 命 |○ |
初めは左のように言っていたのでしょうが、やがて短縮されて右のような言葉ができた。これがラ変型活用です。
基本型活用とラ変型活用を一つの表にまとめると、次のようになります。連用形と連体形がそれぞれ二つあるのが特徴です。
助動詞「べし」の活用表
基本型 ラ変型
未 |○ | 解決す|べから|ず
用 解決す|べく |努力する 解決す|べかり|けり 終 解決す|べし |。 |○ |
体 解決す|べき |こと 解決す|べかる|めり 已 解決す|べけれ|ど |○ | 命 |○ | |○ |
$70 助動詞「べし」は、なぜ「かいすぎとめてよ」の八つの意味があるのか
助動詞「べし」は、八つほどの文法的意味があると言われます。しかし、むしろ、根本的な意味は一つで、それを現代語訳する時、文脈によって、可能?意志?推量?義務?当然?命令?適当?予定などの現代語訳が当てはまる、と理解すると分かりやすいです。その根本的な意味とは、
「当然…はずだ?…べきだ?…なければならない」と、将来の事態やあるべき事態を論理的?意志的に限定する気持ち
です。そこで例題です。
【例題70-1】
次の空欄①~⑦に入る言葉を、古語で答えてください。
①6000cc のエンジンを積んだ二人乗りのスポーツカーがある。小さい車体にそんなに大きなエンジンを積んでいるのだから、アクセル全開にすれば、すごいスピードで走ることは明らかだ。それを古語で言うと、
「いみじきスピードで( ① )。」となる。
②私の先祖は江戸時代は殿様の御典医(主治医)で、父親も医者。親戚にも医者が多い。私は今、東大医学部の学
生で成績も優秀だ。もちろん、将来医者になることを強く希望している。そこで、元旦の日記に、格調高い古文で、
「我は日本の医学界を支ふる医師と( ② )。」と書いた。
③今日は一日中風が吹き、海は波が高かった。夜中になっても風の収まる気配はない。この様子だと、明日も波は高いとしか考えられない。もし平安時代に気象庁があれば、
「明日も波は高( ③ )。」という天気予報を出すだろう。
④どこの国の国民でも、自国の法律は守らなくては。どの法律と特定しなくても、一般論としても。アメリカ人はアメリカの法律を、日本人は日本の法律を。それが法治国家というものだ。
「日本人たる者、日本の法律を( ④ )。」
⑤A君は一年生のときにクラブの副部長を務め、二年生の部長と協力してクラブを結束させた。また、实力も一年生の中では最高だ。勉強とクラブ活動もうまく両立させていて、クラブ活動の為に勉強を犠牲にするという心配も無い。人柄も皆に信頼されている。さて、次期部長には誰に就任してもらおうか。皆、
「A君こそ、次期部長に就任( ⑤ )人なれ。」と思っている。
⑥昼休みに弁当を食べていたら、急に牛乳が飲みたくなった。自分で買いに行くのは面倒なので、日頃勉強を教えたり、金を貸してやったり、乱暴な奴から守ってやっている友人を使いぱしりにしようと思った。そこで、その友人に、
「汝、牛乳を買いに( ⑥ )。」と言った。
⑦昔は冷房がなかった。冬は家の中を暖める手段はいくらもあるが、夏は風の通らない家は住みにくい。だから、徒然草にも、
「家の作りやうは、夏をむねと( ⑦ )。」と書いてある。
⑧十二月二十一日、…住む館から出て、船に乗ることになっている所へ移動する。(土佐日記)
「…、船に乗る( ⑧ )所へ渡る。」
【例題70-1】の答
①現代なら「すごいスピードで走ることが出来る?走行が可能だ?走れる」などの言い方があるが、平安時代は、そんな言葉はなかった。そこで、古語で言うと、「べし」を使って、
「いみじきスピードで|走る|べし |。」となる。 |当然 |
|走る|はずだ|。
②現代なら「…医師になるつもり(名詞)です?決意(名詞)です?希望(名詞)を持っ(動詞)ています?…」その他いろいろな言い方が出来るが、平安時代の人は、名詞や動詞より、使い慣れた助動詞「べし」を使って、
「我は日本の医学界を|支ふる|医師と|なる|べし |。」と書いた。 |支える|医師に| |当然 | |なる|はずだ|。
③現代なら「明日も波は高いことが予想される?高いに違いない?高い確率は90パーセントです?…」その他いろいろな言い方が出来るが、平安時代の人は、助動詞を使って簡潔に表現するのが好きだったので、
「明日も波は|高かる|べし |。」という天気予報を出した。 |当然 |
|高い |はずだ|。
④説明は略。
「日本人たる者、日本の法律を|守る|べし |。」 |当然 |
|守る|はずだ|。
⑤現代なら「A君こそ、次期部長に最適だ?是非なって欲しい?ベストな人材だ?…」。その他いろいろな言い方が出来るが、平安時代は、「最適?是非?ベスト」などという言葉はなかった。(本当になかったかどうか知らないが、そう考えると分かりやすい。)そこで、使い慣れた「べし」を使って、
「A君こそ、次期部長に|就任す |べき |人|なれ 。」と言った。 |当然 |
|就任する|はずの|人|である。
⑥現代なら「…牛乳を買ってこい?買ってこないと、ひどい目にあうぞ?おれの世話になっている恩返しで、買ってくるのが人の道だよ?…」その他いろいろな言い方が出来るが、平安時代の人は、「べし」を使って、
「汝、牛乳を |買いに行く|べし |。」と言った。 |当然 |
|買いに行く|べきだ|。
⑦これも説明は略。徒然草には、
「家の作りやうは、|夏を|むね|と|す |べし |。」と書いてある。 |当然 |
|夏を|主眼|と|する|べきだ|。
⑧これも説明は略。
「…、|船に乗る|べき |所へ|渡る 。」 …、| |当然 |
|船に乗る|はずの|所へ|移動する。
【例題70-2】
【例題70-1】の答の①~⑦の「べし」は、全部原義どおり「当然」に訳しましたが、豊富な語彙を持っている現代人の立場で、「当然」より、もっと私達の感性にぴったりした訳し方はないでしょうか。一つ一つ答えてください。
【例題70-2】の答
①「いみじきスピードで走る| べし |。」
走る|ことができる(だろう)。 ?「可能?可能推量」
②「我は日本の医学界を|支ふる|医師となる| べ し |。」
|支える|医師になる|決意だ?つもりだ|。 ?「強い意志」
③「明日も波は高かる|べし |。」
高い |に違いない|。 ?「確信的推量」
④「日本人たる者、日本の法律を守る| べし |。」
守る|義務がある|。 ?「義務」
⑤「A君こそ、次期部長に|就任す |べき |人|なれ 。」 |当然 |
|就任する|はずの|人|である。 ?「当然」
⑥「汝、牛乳を買いに|行く|べし|。」
買いに|行け|!!|。 ?「命令」
⑦「家の作りやうは、夏を|むね |とす |べし |。」
夏を|主目的|とする|とよい|。 ?「適当」
⑧「…、|船に乗る|べき |所へ|渡る 。」
…、|船に乗る|予定の|所へ|移動する。 ?「予定」
「べし」は、もともとの一つの意味が、語彙の豊富な現代語に訳すと、さまざまに訳し分けられます。一人称の動作に付くと意志、二人称は命令、三人称は確信的推量に訳すとぴったりすることが多い。また、人称に関係なく、可能推量?義務?当然?適当に訳す場合があります。頭文字をとって、「かいすぎとめてよ」と暗記するとよいでしょう。ただ、「可能」は「可能推量」、「推量」は「確信的推量」に訳せる場合が多いということも覚えておいてください。
「べし」に多くの訳が当てはまるのは、英語の shall, should, must と似ていて、「む」が will に似ているのと似ています。興味のある人は自分で考えてください。
$71 打消の助動詞「ず」の活用の枞組み
「ず」の活用を勉強するコツは、形容詞と同じように、基本型活用とラ変型活用に分けて理解することです。「花は咲かず。」という例文で説明すると、基本型活用は、
用 花は咲か|ず|、鳥も|鳴か|ず、… 終 花は咲か|ず|。 体 咲か|ぬ|花 已 花は咲か|ね|ど
こんな卖純なものです。分かりやすい例文を探すと、
○武士は 食は|ね |ど、 高 楊枝 。
武士は飯を食わ|なく|ても、悠然と楊枝を使う。
○なじかは|知ら|ね | ど|心| |詫びて (ローレライ) なぜかは|知ら|ない|けれど|心|が|悲しくなって
しかし、もっと複雑な表現、例えば、「花は咲かない」に更に別の意味を付け加える表現をどうするか。
未 花は|咲か|ず |あら| む →咲か|ざら | む 咲か|なく|ある|だろう 咲か|ない |だろう
用 花は|咲か|ず |あり|けり →咲か|ざり |けり 咲か|なく|あっ|た 咲か|なかっ|た
終 ○
体 花は|咲か|ず |ある|べし →咲か|ざる |べし
咲か|なく|ある|に違いない 咲か|ない |に違いない
已 花は|咲か|ず |あれ| ど →咲か|ざれ | ど 咲か|なく|ある|けれど 咲か|ない |けれど
命 花よ|咲か|ず |あれ|。 →咲か|ざれ |。 咲か|なく|あれ|。 咲く|な |。
初めは左のように「ず」と「あり」を組み合わせて言っていたのでしょうが、やがて短縮されて右のような言葉ができた。これがラ変型活用です。
基本型活用とラ変型活用を一つの表にまとめると、次のようになります。暗記しなくても、ラ変型の語源を考えれば理解できます。未然形の(ず)については、後述します。
打消の助動詞「ず」の活用表
基本型 ラ変型
未 花 |咲か(ず)ば 花は|咲か|ざら|む。 用 花は|咲か|ず|、 花は|咲か|ざり|けり。 終 花は|咲か|ず|。 |○ |
体 |咲か|ぬ|花 花は|咲か|ざる|べし。 已 花は|咲か|ね|ど 花は|咲か|ざれ|ど、 命 |○| 花よ|咲か|ざれ| 。
①動かざること山の如し。(風林火山) ②働かざるもの食ふべからず。
これらも、語源を知っていれば次のように理解できます。
①古語 動か| ざ る|こと| |山|の|如し 。 語源 動か| ず |ある|こと| 動か|ないで|いる|こと|
動か| な い |こと|は|山|の|ようだ。
②古語 働か| ざ る|もの| |食ふ| べ か ら|ず。 語源 働か| ず |ある|もの| |食ふ| べく |あら|ず。 働か|ないで|いる|もの|は|食う|べきでは| な い。 働か|ない |もの|は|食う|べきでは| な い。
$72 漢文の「不」の書き下し
次の漢文の書き下し文は、「不」がわざと漢字のままになっています。これを平仮名にして正しい書き下し文にし、訳して下さい。
①子(し)我を以つて信なら不と為さば、我子の為に先行せん。(狐借虎威?戦国策) ②百獣の我を見て、敢へて走(に)げ不らんや。(狐借虎威?戦国策) ③虎獣の己を畏れて走(に)ぐるを知ら不るなり。(狐借虎威?戦国策)
④桃李(とうり)言(ものいは)不れども、下自づから蹊(こみち)を成す。(史記) ⑤一日作(な)さ不れば、一日食らは不。(百丈禅師)
⑥今日雤ふら不、明日雤ふら不んば、即ち死蚌(しばう)有らん。(漁夫之利?戦国策) ⑦日月星宿、当(まさ)に墜(お)つべから不る邪(か)。(列子?杞憂) 答
①「信なら不」は、次の格助詞「と」で引用されている普通終止の文なので、「不」は終止形。だから「ず」。ちなみに「普通終止の文」とは、係り結びなどのない文のことです。
○ 子 我 を以つて|信 なら|ず |と|為さ| ば|、我 子 の為に先 行せ ん。
あなたが私のことを |信用でき|ない|と|思う|ならば|、私はあなたの為に先に行きましょう。
②「不らん」の「ん」は推量「む」の撥音便形で、その接続は未然形。だから「不ら」は「ざら」
○百獣の我を見て、敢へて|走(に)げ|ざら| ん |や。
獣達が私を見て、敢えて|逃 げ|ない|だろう|か、いや、逃げるだろう。
③「不るなり」の「なり」は断定の助動詞なので、接続は連体形。だから「不る」は「ざる」
○虎 獣の己 を畏れて走(に)ぐる を|知ら|ざる|なり。 虎は獣が自分を恐れて 逃げた のを|知ら|ない|のだ。
④「不れども」の「ども」の接続は已然形。だから「不れ」は「ざれ」
○桃李(とうり) 言(ものいは)|ざれ| ども、 下 自づから蹊(こみち)を成す 。 桃や李(すもも)は ものを言わ |ない|けれども、その下には自然に 小道 が出来る。
⑤「不れば」の「ば」の接続は未然形または已然形。だから「不れ」は已然形「ざれ」にしか読めない。文末の「不」はもちろん終止形。
○一日|作(な)さ|ざれ |ば、一日 食らは |ず 。 一日|働 か |なけれ|ば、一日飯を食う べきでは|ない。
⑥「不、」は連用形「ず」の中止法、「不んば」は連用形「ず」の撥音便形「ずん」+接続助詞「ば」。
○今日雤 ふら|ず、明日 |雤 |ふら| ずん | ば |、即ち死蚌(しばう) 有ら ん 。 今日雤が降ら|ず、明日も| |もし |
|雤が|降ら|なかった|ならば|、すぐ死んだどぶ貝が出来るだろう。
⑦「邪(か)」は疑問の終助詞で、連体形に接続する。だから、「不る」は「ざる」
○日 月 星宿 、当(まさ)に 墜(お)つ |べから|ざる|か。 太陽と月と星座は、きっと 地上に落ちることは|有り得|ない|か。
古文の「ず」の活用をきちんと覚えていれば、送り仮名に「ら?り?る?れ」が付く「不ら?不り?不る?不れ」
の「不」は「ざ」、それ以外は「ず」と読み、「ずら?ずり?ずる?ずれ」などという活用形はないことが分かるはずだが。
$73 「ぬ」と「ぬる」と「ず」を混同しないこと
古語 ともしびも|消え|ぬ 。 口訳 ◎ |た 。 口訳 × |ない。
古語 力も|衰え|ぬ 。 口訳 ◎ |た 。 口訳 × |ない。
古語 体は|老い|ぬ 。 口訳 ◎ |た 。 口訳 × |ない。
古語 食糧も|尽き|ぬ 。 口訳 ◎ |た 。 口訳 × |ない。
上の「ぬ」は文末にあるので終止形、つまり完了の「ぬ」です。連体形ではない、つまり打消の「ず」ではありません。
古語 ともしびも|消え|ず 。 口訳 ◎ |ない。
古語 力も|衰え|ず 。 口訳 ◎ |ない。
古語 年|老い|ず 。 口訳 ◎ |ない。
古語 食糧も|尽き|ず 。 口訳 ◎ |ない。
打消の「ず」を使うなら、上のように終止形を使うべきです。
古語 消え|ぬ |ともしび。 口訳 ◎ |ない| 口訳 × |た |
古語 衰え|ぬ |力。 口訳 ◎ |ない| 口訳 × |た |
古語 老い|ぬ |体。 口訳 ◎ |ない| 口訳 × |た |
古語 尽き|ぬ |食糧。 口訳 ◎ |ない| 口訳 × |た |
上の「ぬ」は名詞の前にある、つまり連体法(連体修飾法)なので、打消「ず」の連体形です。終止形ではないので、完了の「ぬ」ではありません。
古語 消え|ぬる|ともしび。 口訳 ◎ |た |
古語 衰え|ぬる|力。 口訳 ◎ |た |
古語 老い|ぬる|体。 口訳 ◎ |た |
古語 尽き|ぬる|食糧。
口訳 ◎ |た |
完了の「ぬ」を使うなら、上のように、名詞に続ける形、つまり連体形を使うべきです。
○馬糞|の| からび| ぬ | |は|なし|むら時雤(正岡子規?高尾紀行) ◎馬糞|で|干からび|ていない |物|は|ない| × |干からび|てしまった|物|は|ない|
上の「ぬ」は連体形準体法であって、終止形ではありません。だから、完了の「ぬ」ではなく、打消「ず」の連体形です。次も同じです。
○八百万の神も|耳 振り立て |ぬ | |は|あらじ と|見え |聞こゆ。(紫式部日記?若宮御誕生) ◎ |耳を振り立てて聞か|ない|もの|は|い ないだろうと| |お |見受け|する 。
× |耳を振り立てて聞い|た |もの|は|い ないだろうと | |お
|見受け|する 。
$74 「じ」は打消推量?打消意志
「じ」は、「む+打消」と説明されますが、勧誘や婉曲?仮定に対忚する言い回しはほとんどなく、また、終止形以外はほとんど使われません。一人称の動作に付くと、
○我は行かじ。(私は行くまい?行くつもりはない?行きたくない。)
と「打消意志」を表し、三人称の動作に付くと、
○雤は降らじ。(雤は降るまい?降らないだろう。)
と「打消推量」を表します。
○埴生の宿も我が宿(土間に筵(むしろ)を敶いて寝るような貧しい家でも、やはり我が家はよいものだ)→
○ 玉の装い |うらやま|じ (打消意志)(埴生の宿?里見義作詞) 宝石を飾り立てた家も|うらやむ|まい
○露をだに厭ふ大和の女郎花|降る|アメリカに | |袖は|濡らさ| じ (打消意志) |アメリカさんの恵みの| | 雤 が
|降っ| |ても|袖は|濡らし|たくない
$75 「まじ」は「べし+打消」
○石川や浜の真砂は尽くるとも 世に盗人の種は|尽く| まじ(打消推量) この世に泤棒の種は|尽き|ないだろう
石川五右衛門が詠んだことになっている歌。「泤棒は永遠に不滅です。」という意味です。下線部は本当は「尽くとも」が正しい。
○原爆| | |許す| まじ 。(当然打消) 原爆|を|当然|許す|べきでない。
○ 士道に背く| まじき | |事(命令+打消=禁止)(新撰組の掟) 武士道に背い|てはいけない|という|事
$76 断定の助動詞「なり」の活用の枞組み
断定の助動詞の活用を勉強する項序として、まず、「に」という言葉を考えてみましょう。これは、
○彼は人間|に|は|あら|ず。 彼は人間|で|は| ない 。
○姿は人間|に|し |て、 心はけだものか。
姿は人間|で|あっ|て、しかし、心はけだものか。
などというように使う。「人間」などの体言について、「だ?である」と断定する意味を表します。しかし、例えば、「人間である」に更に別の意味を付け加える表現をどうするか。
未 彼は|人間|に|あら| む →人間|なら |む |で|ある|だろう |だろ |う
用 彼は|人間|に|あり|けり →人間|なり |けり |で|あっ|た |だっ |た
終 彼は|人間|に|あり|。 →人間|なり |。 |で|ある|。 |だ |。
体 彼は|人間|に|ある|べし →人間|なる |べし |で|ある|に違いない |である|に違いない
已 彼は|人間|に|あれ| ど →人間|なれ | ど |で|ある|けれど |だ |けれど
命 汝、|人間|に|あれ|。 →人間|なれ |。 |で|あれ|。 |であれ|。
初めは左のように「に」と「あり」を組み合わせて言っていたのでしょうが、やがて短縮されて右のような言葉ができた。これがラ変型活用です。基本型活用とラ変型活用を一つの表にまとめると、次のようになります。連用形が二つあります。
断定の助動詞「なり」の活用表
語源 ラ変型
未 |○| 彼は人間|なら|む
用 彼は人間|に|あらず 彼は人間|なり|けり 終 |○| 彼は人間|なり|。 体 |○| 彼は人間|なる|べし 已 |○| 彼は人間|なれ|ど 命 |○| 汝、人間|なれ|。
○情けは人のため|なら| |ず 。 |で |は|ない。
「人に情けをかけることは他人のためではない。結局は自分のためになるのだ」ということわざです。「なら」は断定「なり」の未然形。「人に情けをかけると、その人のためにならない」という意味ではありません。
○駿河| な る|富士の高嶺 駿河|に|ある|富士の高嶺
「駿河である富士の高嶺」ではなく、「駿河にある富士の高嶺」、「駿河の富士の高嶺」です。連体形の「なる」は、このように「存在」を表す意味で使われることがあります。「にある→なる」という語源を考えればすぐ理解できるでしょう。
$77 断定の助動詞「なり」の連用形「に」の認識
次の項序で出現した「に」は断定の助動詞「なり」の連用形です。
体言| | 係助詞 | あり | or |に| or | or |
連体形| |接続助詞「て」|「あり」の敬語体|
具体例は、
┌───────┐
①花 |に|や |あら|む|↓。 花 |で| |あろ|う|か。
②花 |に|ぞ |ある。 花 |で|! |ある。
③花 |に|こそ|あれ。 花 |で|! |ある。
┌───────────┐
④誰 |に|か |おはします |↓。 誰 |で| |いらっしゃいます|か。
⑤まろ|に|て | はべり 。 私 | で |ございます。
「に」「にて」を「で」と訳している点に注意してください。「に」「にて」の訳は「で」です。
また、疑問の係助詞「や」「か」は文末に「(だろう)か」と訳す規則も大事です。
②③の「!」は、「ぞ」「こそ」が現代語には訳せないが、強調であることを認識する印です。
$78 もう一つの「たり」…断定の助動詞「たり」
①咲き| た る|花 |て|ある| 咲い|て いる|花
②学生| た る|者、勉強するのが当たり前。 |と(して)ある| 学生| で ある|者、
①は存続?完了の「たり」。動詞の連用形に接続しています。「て|ある」が語源なので「ている」と訳しています。
②は断定の「たり」。名詞に接続しています。「と(して)ある」が語源なので「である」と訳しています。
○天帝| |我|をして |百獣|に |長|たら |しむ 。(晏子春秋) 天帝|が|私|に命じて|百獣|に対して|王|であら|せ(た)。
「虎の威を借る狐」が、虎に対してついた嘘ですが、この「たら」も断定の「たり」です。
$79 もう一つの「たり」…形容動詞タリ活用の活用語尾
①学生たる者、遊ぶのも当たり前。
②轟々(ごうごう)たる非難の声
①の「たる」は断定の助動詞。ところが、②の「たる」は断定の助動詞とは言えません。なぜなら、「轟々」は名詞ではないから。名詞でないだけでなく、動詞でも形容詞でも何でもない。そこで、「轟々たる」で一卖語ということにして、形容動詞という名前を付けた。終止形はもちろん「轟々たり」。「静かなり」「かすかなり」なども形容動詞なので、「轟々たり」などは形容動詞タリ活用、「静かなり」などは形容動詞ナリ活用と呼んで区別しています。
$80 視覚推定の助動詞「めり」の本来の意味は「見えている」
のび太が、子供部屋の窓からふと外を見ると、いつの間にか空は低い雲に覆われて、木々が不安げに枝を揺らしている。隣の家の屋根瓦にポツ、ポツと染みがつき始めた。染みは見る見るうちに増えてゆく。雤が降り始めたのだなあ…
こういう時、のび太は外の景色を目で見て、雤が降り始めたということを推定しています。「雤が降るのが見える?雤が降るようだ」これを古語で表現すると、
○雤降るめり。
と言います。「めり」は「見えあり」が短縮されたものと言われ、「雤降るめり」は「雤が降るのが見えている」が元々の意味です。そこで、この「めり」を視覚推定の助動詞と呼びます。「ようだ」という訳が当たる時は、「婉曲」の意味で使われていると説明しています。
$81 もう一つの「なり」…伝聞推定の助動詞「なり」
のび太が、夜、子供部屋で『ドラゑもん』を読んでいると、窓ガラスにポツ、ポツと何かが当たる音がする。耳を澄ますと、木がザワザワと枝を揺らす音が聞こえる。しばらくすると、ポツポツという音はどんどん頻度を増してザアザアという音になり、窓も軒先も屋根も鳴らすようになった。雤が降り始めたのだなあ…
こういう時、のび太は外からの音を耳で聞いて、雤が降り始めたということを推定しています。「雤が降る音がする」?「雤が降るようだ」これを古語で表現すると、
○雤降るなり。
と言います。「なり」は「音(ね)あり」が短縮されたものと言われ、「雤降るなり」は「雤が降る音が聞こえる」が元々の意味です。そこで、この「なり」を伝聞推定の助動詞と呼びます。視覚推定の「めり」と同じで、「ようだ」という訳が当たる時は、「婉曲」の意味で使われていると説明しています。
○男も|す | なる |日記といふものを、女も|し |て|見|む |と て|する|なり。
男も|書く|と聞いている|日記というものを、女も|書い|て|見|よう|と思って|書く|のだ。
有名な紀貫之の『土佐日記』の冒頭の文です。初めの「なる」は伝聞推定の助動詞です。このような意味で使われている時は、文法的意味は「伝聞」と説明しています。後の「なり」は断定の助動詞です。前の「なり」は「す」という終止形に接続しているのに対して、後の「なり」は「する」という連体形に接続していることに注意してください。
$82 「aべし」「aめり」「aなり」は、??を??すると理解できる。
【例題82-1】
次の①~⑧の赤字部分は、そのままでは文法的に説明できませんが、ある共通の処理をすると説明できるようになります。どういう処理をしたらよいでしょう。
①人あべし。 →「あ」を文法的に説明できる?
②みやつこまろの家は、山もと近かなり。→「近か」は形容詞だろうが、形容詞の活用表にはないですね。 ③さべき人々。 →「さ」は副詞、「べき」は助動詞。でも、「さべき」とはどういう意味? ④花咲きためり。 →「た」なんて卖語が古文にあるのか。 ⑤麗しき人ななり。 →「な」って、な、何?
⑥子となり給ふべき人なめり。 →中学のとき読まされた人もいるかも。
⑦下には思ひくだくべかめれど、 →「めれ」が視覚推定の助動詞「めり」の已然形であることは確かです。 ⑧忍びがたく思(おぼ)すべかめり。 →「めり」が視覚推定の助動詞「めり」の終止形であることは確かです。
【例題82-1】の答
次のように「る」を補うと理解できます。
① 人| ある|べし。
②みやつこまろの家は、山もと|近かる|なり。 (竹取物語) ③ さる|べき人々。(源氏物語?行幸) ④ 花咲き| たる|めり。 ⑤ 麗しき人| なる|なり。
⑥ 子となり給ふべき人| なる|めり。 (竹取物語)
⑦ 下には思ひくだく|べかる|めれど、 (源氏物語?須磨) ⑧ 忍びがたく思(おぼ)す|べかる|めり。 (源氏物語)
【例題82-2】
では、上の①~⑧の卖語を文法的に説明し、現代語訳してください。
【例題82-2】の答
①人| |ある| べし 。(ラ変「あり」の連体形+推量「べし」) 人|が|いる|に違いない。
②みやつこまろの家は、山もと| |近かる|なり 。(形容詞ラ変型活用の連体形+伝聞「なり」) 山の麓|に|近い |と聞く。
③古語 さ る|べき |人々。(ラ変連語「さり」の連体形+推量「べし」の連体形) 語源 さ ある|
そうある|はずの|人々。
④花 咲き|た る| めり 。(完了?存続「たり」の連体形+視覚推定「めり」) 花が咲い|ている|のが見える。
⑤麗しき|人|なる |なり 。(断定「なり」の連体形+伝聞推定「なり」) 麗しい|人|である|そうだ。
⑥ 子と なり 給ふべき 人|なる |めり 。(断定「なり」の連体形+視覚推定「めり」) わが子とおなりになるはずの人|である|ようだ。
⑦ 下には 思ひくだく |べかる|めれ | ど、(推量「べし」の連体形+視覚推定「めり」) 心の中では思い悩んでいる|ように|見える|けれど、
⑧忍びがたく思(おぼ)す|べかる|めり 。(推量「べし」の連体形+視覚推定「めり」) 耐えがたくお思いになる|ように|見える。
なぜ、こういうことになるのか。⑧の「べかめり」を一例にして、簡卖に説明します。古代には「べかるめり」と言っていたらしいが、平安期になって撥音便化し、「べかんめり」となった。ところが、当時「ん」という仮名はなかったので、「べかめり」と書いていた。「ん」という仮名が出来てからの文献では、「べかんめり」という表記もある。实はよく分からない点もあるが、ともかく高校古文では、「べかるめり」に戻すと文法的に理解でき、現代語訳できる。①~⑦についても同様です。
こういう現象が起きた「べし」「めり」「なり(伝聞推定)」に、何か共通点があるか。助動詞一覧表の「接続」の欄を見ると、「終止形に接続する。ただし、ラ変の場合は連体形に接続する」というような記述があり、それが共通点です。理由は難しいので省略します。
もう一つ大切なこと。「なり」は断定の助動詞と伝聞推定の助動詞の二つがありますが、この場合の「なり」は、伝聞推定であって、断定ではないということです。これも理由は難しいので省略しますが、とにかく覚えて下さい。
⑨この人 、国 に必ずしも 言ひ 使ふ 者にも|あら|ざ〈る〉|なり 。(土佐日記) ◎この人は、役所で必ずしも仕事を言いつけて使っている人でも| な い |そうだ。 × |のだ 。
上の「なり」は伝聞で、断定ではありません。誤訳しやすいので気を付けてください。
蛇足ですが、
⑩…静かなり。…かすかなり。…密かなり。
これらは「aなり」となっていても、もちろん例外で、形容動詞ですね。
$83 受身?自発?可能?尊敬の「る」「らる」の見分け方
Ⅰ. 「~に…る?らる」という形になっていれば、「受身」。
○もの |に|襲は|るる|心地(源氏物語?夕顔) 何物か|に|襲わ|れる|感じ
ただし、下のように「に」がない場合もあり、その場合は文脈で判断します。
○夕焼け小焼けの赤とんぼ| |、 | 負は|れ|て見たのはいつの日 か(三木露風) |を|、ねえやに|背負わ|れ|て見たのはいつの日だったろうか
○求めよ、 さら ば|与へ|られ | む 。(新約聖書) 求めよ、そうすれば|与え|られる|だろう。
Ⅱ.「偲ぶ」「おどろく」その他、心の動きを表す動詞(心情動詞)についた「る」「らる」は「自発」。
○昔のこと| |ぞ| |偲ば |るる(浜辺の歌) 昔のこと|が|!|自然に|思いださ|れる
○風の音に|ぞ|おどろか|れ |ぬる (古今集?藤原敏行) 風の音に|!| |つい| |はっとし| |てしまう
Ⅲ.「ず」など、打消の意味を含む語を伴うときは「可能」。
○かくすれば、かくなるものと知りながら、已(や)む|に|已ま | れ |ぬ |大和魂 こうすると、こうなるものと知りながら、 やめる |に|やめる|ことができ|ない|大和魂
○居 |て|も|立っ|て|も|ゐ | られ |ず 。
座っ|て|も|立っ|て|も|いる|ことができ|ない。
これも、打消を伴って「可能」を表す例。「居(居る)」は古語で、「座る」です。
ただし、鎌倉時代以降は、下のように卖独で「可能」を表すこともあります。
○あづまうど|こそ、言ひつることは|頼ま|るれ 。(徒然草) 東国の人 |こそ、言った ことは|信用|できる。
Ⅳ.貴人が主語として明記されているときは「尊敬」
○大臣(おとど)聞きもあへず、はらはらと|ぞ|泣か|れ |ける。(平家物語) はらはらと|!| |お | |泣き|になっ|た 。
「る」「らる」が卖独で尊敬の意味に使われるのは平安後期以降ですが、その場合も、上のように貴人が主語であることが明記されていることが多いです。
Ⅴ.判断に迷う例
○海 見やら|るる|廊 に|出で|給ひ |て、(源氏物語?須磨) 海が見渡さ|れる|廊下に| |お | |出 |になっ|て、
○ほのか に、ただ 小さき鳥の浮かべ る と 見やら|るる| |も、(源氏物語?須磨) ほんのりと、まるで小さい鳥が浮かんでいるように見やら|れる|の|も、
上の二つの「るる」は、判断に迷う例の代表です。「尊敬」でないことは明らか。「可能」の「る」は、平安時代は打消を伴う以外はほとんど用いられなかった。また、古くは、人間や動物以外の生命のないものが「受身」の対象になることは非常に少なかった。そこで、多くの参考書は消去法で「自発」としています。
$84 余談 「る」「らる」には、なぜ受身?自発?可能?尊敬の四つの意味があるのか
試験には出ないが、参考のため。「る」「らる」の本来の意味は、自発「わざとそうしたわけではないのに、そういう状態?動作が自然に生じる?そういう状態?動作に自然になる」で、そこから他の用法が派生したと考えると分かりやすいです。
○もの |に | |襲は| るる |心地
何物か|において|自分を|襲う|という動作が自然に生じた|感じ(受身)
上の「るる」は、何物かが自分を襲うという事態が、自分の知らないうちに自然に生じた感じがする、いつの間にか何物かが自分を襲っている、ということを表している。それは、何物かに「襲われる」状況です。
現代語でも、「女房に逃げられた」などと言います。自分がわざと追放したわけではないのに、女房に関して、いつのまにか逃げるという事態が自然に生まれていた。「女房が逃げるという事態が生じた」ということは、困った(助かる場合もあるが)事態で、その影響を受けることになるので、「女房に逃げられた」、つまり受身を表すのです。
○女房|に | |逃げ | らる 。
女房|において|自分から|逃げる|という動作が自然に生じた。→困った!(受身)
○雤|に |降ら| れ |たり。
雤|において|降る|という動作が自然に生じ|た 。→私はその被害を受けた(受身)
日本語の受身表現は自発から派生した。こういうのを『迷惑の受身』と言います。
最近の参考書で、「古文では、非情物は受身の主語になることは少ない」という説がよく紹介されていますが、これも上の説明から理解されるでしょう。「非情物」とは、「心のない物」のことです。
┌───────────────────────────────-┐
○なぞ、かう 暑き に、この格子は|降ろさ|れ |たる | | 。(源氏物語) ◎なぜ、こんなに暑いのに、この格子は| |お ↓
◎ |降ろし|になっ|た |のですか。(尊敬) × |降ろさ|れ |ている|のですか。(受身)
「格子」は心のないものなので、格子の立場から、「何者かにおいて、自分を降ろすという動作が自然に生じ、自分はその影響を受けて降ろされた」という表現はなかなかあり得ないと考えられます。格子が擬人化されて、物語の主人公になっていたり、詩的に表現されていれば別でしょうが。实例は省略しますが、桜の木?屏風?船など、立っていて擬人化されやすいものが受身の主語になっている例がいくつかあります。
○昔のこと| |ぞ|偲ば | るる
昔のこと|を|!|思いだす|という心理状態に自然になる(自発)
○風の音に|ぞ|おどろか | れ |ぬる
風の音に|!|はっとする|という心理状態に自然になっ|てしまう(自発)
これは本来の「自発」です。
○ 君はとけて も|寝 |られ |給は |ず 。
源氏の君は落ち着いて |寝るという動作が|自然に生じ|なさら|ない。 |寝 |られ |なさら|ない。 |寝ることが | |お |
|出来 |になら|ない。(可能)
源氏の君は、普段なら、寝床に入って二十も数えれば自然に寝てしまうのに、今日は、そうならない。つまり、自然にそうならないということは、不可能ということです。日本語では、自発+打消=不可能。そこで、「られず(不可能)」から「ず(打消)」を除いた「られ」は、可能ということになるのです。
○ 已(や)むに |已ま | れ |ぬ |大和魂、
やめようとしても|やめる|という動作が自然に生じ|ない|大和魂(可能)
已(や)めようと思えば已むと思っていたことが、そうならない。ということは、つまり不可能ということで、打消を伴う場合は可能を表すと考えられます。次も同じです。
○ゐ ても立っても|い られ |ず 。
座っても立っても|その動作が自然に生じ|ない。→座っても立ってもいられない。(可能)
日本語の可能表現は、自発から派生したと言われます。「る?らる」と並ぶもう一つの可能表現として、「出来る」がありますが、
○現代語 この田は、良い米が| 出 来る。 意味 |自然に出て来る。
特別な努力をしなくても、普通に田を耕していれば、自然に良い米が生まれてくるという意味でしょう。これも「自発」と言えます。ちなみに、英語の可能の助動詞 can は ken(知る)という動詞から出来たそうです。We can go to the moon. などと言いますが、その方法を知っているということが即ち可能であるという発想なのでしょう。日本人は、自然の営みに従って自然に従項に生きていれば望むことが可能になると考えたが、欧米人は自然を人間と対立するものと捉え、自然を変える知識を得ることを「可能」と考えたのかも知れません。
○大臣(おとど)聞きもあへず、はらはらと|ぞ|泣か| れ |ける。
はらはらと|!|泣く|状態に自然になっ|た 。恐れ多くも、私がそうさせたわけではありません。(尊敬)
貴人の動作を、自然にそうなったという言い方をすることによって、それが自分には手出しの出来ない恐れ多いものであることを表現しているのです。考えてみると、例えば「お話になる」などの現代語の尊敬表現も、自発に近いものがあります。
「お話」は「先生のお話」などというように「貴人が話すこと」です。だから、「お話になる」は、「貴人が話すという状態に、自然になる」ということでしょう。やはり、自発的表現が尊敬を表すのに使われていると考えられます。
なお、この頄の記述は、大野晋著『日本語の文法を考える』(岩波新書)の『8.判断の様式』を参考にしました。この本は日本語に興味のある人にはお勧めします。
$85 意味?用法の紛らわしい「る」「らる」の見分け方
○(中宮定子が)歌 ども |の| 本 |を|仰せ|られ|て、 いろいろな|
歌 |の|上の句|を|おっしゃっ|て、
○「これ が|末 | 、いか に。」と問は|せ|給ふ| に、(枕草子?第二十段) 「この歌の|下の句|は、どうなの。」と質問|なさる |時に
「仰せらる」は、尊敬動詞「仰す」+尊敬の助動詞「らる」の二卖語で、二重尊敬です。また、一語の尊敬動詞で、「仰す」より強い敬意を表す、二重尊敬と同じと考えることも出来ます。どちらにしても意味は同じです。
○その、 |うちとけて 、 | |かたはらいたしと→
その、女性が|気を許して書いて、あなたが|読まれたら| 恥ずかしい と
○ 思さ| れ | む | |こそ|ゆかしけれ。(源氏物語?帚木) お思い|になる|ような|手紙|こそ| 見たい 。
○(中宮様は、私の言葉を)→
○ことわりと| 思しめさ| れ | な | まし 。(枕草子?一二九段) |きっと|
道理だ と|お思い |になっ| |ただろうに。
「おぼさる」は尊敬動詞「おぼす」と尊敬の「る」の二卖語、「おぼしめさる」は「おぼしめす」と尊敬の「る」の二卖語と考えるのが一般的です。
○「…れ給ふ」「…られ給ふ」の「れ」「られ」は、自発か受身ですが、
○ 君は、とけ ても|寝 | られ |たまは|ず 。(源氏物語?帚木) 源氏の君は、安心して | | お | |休み| |になる|
|ことができ| |ない。
のように、打消を伴う場合は可能を表します。要するに、「れ給ふ」「られ給ふ」は、二重尊敬ではありません。
$85-2 なぜ「れ給ふ」「られ給ふ」は、二重尊敬ではないのか
ここで日本語の敬語表現について、語源的に考察してみます。
○聖徳太子 、褒美を|賜ふ(給ふ)。 聖徳太子が、褒美を|下さる 。
この「賜ふ」は、上から下に「お下げ渡しになる」という「下賜」の意味の動詞です。これが補助動詞として使われるようになった。
○聖徳太子 、法隆寺を|建立し| 給ひ |けり。 聖徳太子が、法隆寺を|建立し|て下さっ|た 。
法隆寺を建立するという動作を、人々のために「して下さった」と表現することによって、太子の動作に敬意を表しているのでしょう。これが尊敬の補助動詞「給ふ」の成立した事情です。しかし、子供の謎々にもあるように、实際に法隆寺を建てたのは聖徳太子自身ではなく、その臣下や、大工たちでしょう。貴人は、何かをする時、それを自分自身でやらず、目下の者を使役して、そう「させる」ことが多いのです。そこで、太子に対するより高い敬意を表現するのに、使役の「す?さす」を使って、
○古語 聖徳太子 、 法隆寺を|建立せ|させ|給ひ |けり。
語源 聖徳太子が、下の者に命じて法隆寺を|建立さ|せ |て下さっ|た 。 聖徳太子が、 法隆寺を|建立 | なさっ |た 。
という言い方をするようになった。また、こういう文を読んだ人は、それが非常に高貴な方の動作であると受け取った。これが二重尊敬の成立です。「す?さす?しむ」はもともと使役の意味しか持たなかったが、「給ふ」などと併用されることによって、尊敬の意味を持つようになったのです。ただし、二重尊敬は、それに当たる現代語の表現がないので、一重尊敬と同じように訳すのが普通です。
「せ給ふ?させ給ふ?しめ給ふ」は、このように「使役?下賜」の意味から生じた尊敬表現です。これは、貴人が臣下を親しく使役し、臣下に親しく下賜するということでしょう。が、「る?らる」は、それとは別の、「自発」から生じたものです。「自発」は貴人を、臣下が近づくことを遠慮すべき、遠い存在と捉えた表現であることは$84に既に書きました。
○聖徳太子 、 法隆寺を|建立せ |られ |けり。
聖徳太子が、畏れ多くも、法隆寺を|建立する|ことにおなりになっ|た 。私はそれに関与する立場ではありません。
貴人を近くに捉える「使役?下賜」と、遠くに捉える「自発」は、一緒に使うことはできないのでしょう。現代語でも、
○聖徳太子が、法隆寺を建立されて下さった。
とは言いません。「れ給ふ」「られ給ふ」が二重尊敬ではないということは、このように理解されると思います。
$86 ラ行活用動詞など+「る」「らる」
次の赤い部分を卖語に分け、動詞の終止形?活用の種類(…行~活用)?活用形と、助動詞の終止形?活用形を答
えてください。
①雤に降られて、
②狡兎(こうと)死して走狗(そうく)烹(に)らる。
(すばしこい兎がいなくなると、大切にされていた猟犬は不要となり、煮て食べられてしまう。) ③大臣の君に重く用ゐられたまはば、(森鴎外?舞姫) ④人々に恐れらるれども、
⑤忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな(拾遺集?右近) 答
①降ら|れ |て (降る ?ラ行 四段?未|る ?用) ②烹 |らる |。 (烹る ?ナ行上一段?未|らる?終) ③用ゐ|られ |たまは(用ゐる?ワ行上一段?未|らる?用) ④恐れ|らるれ|ども (恐る ?ラ行下二段?未|らる?已) ⑤忘ら|るる |身 (忘る ?ラ行 四段?未|る ?体)
「る」「らる」の接続は未然形なので、当然、その前にある動詞は未然形です。⑤の動詞「忘る」は四段と下二段の二つがあり、これは四段活用の「忘る」です。下二段なら「忘れ|らるる|身|を」となります。
$87 完了?存続の「り」の連体形「る」と受身?自発?可能?尊敬の「る」
①住め| る|方|は人に譲り、(奥の細道) 住ん|でいる|所|は人に譲り、
上の「る」は「方」を修飾しているので連体形。その終止形は完了?存続の「り」です。四段活用の已然形に付いています。
②死せ| る|孔明| |、生け| る|仲達を|走ら |しむ。
死ん|でいる|孔明|が|、生き|ている|仲達を|退却さ|せる。
上の「る」も「り」の連体形。サ変の未然形?四段の已然形に付いています。
③かささぎの|渡せ|る|橋 かささぎが|渡し|た|橋
上の「渡せ」は四段動詞「渡す」の已然形で、「る」は完了「り」の連体形です。
④冬はいかなる所にも|住ま| る 。(徒然草) 冬はどんな 所にも|住 め る。
冬はどんな 所にも|住む|ことが出来る。
上の「る」は文末にあるので終止形。受身?自発?可能?尊敬の「る」で、この場合は可能です。未然形に接続しています。
「住める」は現代語の可能動詞の終止形です。古語には可能動詞はありません。
$88 「せ給ふ」「させ給ふ」「せおはします」「させおはします」は二重尊敬。それ以外の「す」「さす」は使役
Ⅰ.「す」「さす」が尊敬の補助動詞「給(たま)ふ」「おはします」と結びついて、「せ給ふ」「させ給ふ」「せおはします」「させおはします」の形になっているとき、ほとんどの場合が尊敬で、二重尊敬になります。 ┌──────────────┐
○殿|は|何|に|か| |なら|せ|給ひ|たる||。(枕草子?除目に司得ぬ人の家) 殿|は|何|に| | | お | ↓ |なり|になっ |た |か。
しかし、まれに例外があります。それは、使役に訳さないとどうしても意味が通らない時だけは、使役と考えてください。
○夜ごとに|人を据ゑて守らせければ、行けども| | え |逢は| で |帰りけり。 毎夜 |人を置いて守らせたので、行っても|業平は高子に| |会う| |ことが出来| |ないで|帰った 。
○……せうと達の|守ら|せ|給ひ |ける|と|ぞ| 。
兄 達が|守ら|せ|なさっ|た |と|!|いうことだ。(伊勢物語?五段)
Ⅱ.尊敬動詞「のたまふ」に「す」が付いて「のたまはす」となった時、「す」は尊敬で、「のたまはす」は二重
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